三本指打法 (構想)

(96年4月30日完結)

最初は誰でも“一本指打法”

 “漢直”研究家の増田忠さんによると、動かしやすい指から順にトレーニングすることがタイプ上達の秘決だそうです。
 増田式トレーニングは、とても簡単で高い効果があるのですが、すぐに両手の全部の指を使ってタイプできるなんて…と思う人がいるかもしれません。だまされたと思ってやってみるのが一番なんですが、世の中、だまされにやすい人ばかりではありません。それに、一本指打法でもちゃんとタイプできてるんだから別に困らないよという人も多いでしょう。でも、一本指打法のままでは“漢直”の良さが半減してしまいます。
 多くの“漢直”は、タイピストのような打ち方を想定して設計されているため、このような指使いをする初心者にはあまり適していません。そこで、一本指に二本加えた“三本指打法”を前提にした“漢直”を考えてみました。

“一本指打法”に一本加える

 一本指打法といっても、実際は両手の人差指で打っていることがあるのではないでしょうか。左右合わせて二本指です。このやり方は片手一本指よりもずいぶん楽です。慣れると二本指でもブラインドタッチできるようになるかもしれません。
 もしも、二本の人差指を使ってキーボードを叩いているとしたら、タイピストのように両手の指をフルに使っている場合の40%近くのキーを正しい指で打っていることになります。十本のうち二本なのになぜ20%でないかというと、人差指の担当するキーは他の指の二倍あるからです。ここまでくれば、三本指打法まであと一本です。

“二本指打法”にもう一本加える

 両手の人差指に中指を加える。これは難しいことではありません。"jk"とか"fd"のように隣合ったキーを続けて打つとき、人差指だけを使うより中指を加えた方が自然に打てます。一個ずつ順番に打つのも簡単ですが、二個同時ならもっと簡単です。同時打鍵ならばどちらが先でも構わないからです。
 二個だけでは続けて素早く打ったときとの区別がつけにくい(実は同時打鍵は思っているほど難しくはない)ので、これにもう片方の指を一本加えた同時打鍵を、“漢直”のパターンに使うことにします。
 人差指と中指を使った三本指打法の“漢直”のパターンは、324個もあります。これだけあれば、当分は間に合います。324個の漢字では少ないかもしれませんが、324個の熟語ならどうでしょうか。

なぜ“熟語”直接入力なのか

 従来の“漢直”は、あるキーの打ち方に対して漢字一文字を割り当てています。たぶん一文字単位で覚えた方が効率的だからでしょう。漢字を全面的に直接入力するつもりならばその通りなのですが、さしあたり普通の人が直接入力する必要のある漢字はそれほど多くはありません。かな漢字変換で一発で入力できる熟語まで直接入力する必要を感じる人は少ないでしょう。
 また、漢字を一文字単位で覚えると、打てる漢字を含む熟語はみんな直接入力したくなりますが、その中に打てない漢字が入っていると悩むことになります。かな漢字変換なら一発で変換できたのに、直接入力を使い始めたせいですんなり入力できなくなる場面がしばしば発生します。(このジレンマから抜け出すために、T-Codeの補助入力手段のひとつ“交ぜ書き変換”を使う手もありますが、これは以下の理由で必ずしも最良の解決策とはいえません)
 実は、ここに“頻度統計の罠”とでもいうべきものが待ち構えているのです。例えば「対象」「対称」「対照」の使い分けが問題になるとしましょう。この場合、打ち分けが必要なのは「対」ではなくて「象」「称」「照」の方です。ところが、漢字の出現頻度の統計を使うと、共通する「対」の方が高位にランク付けられて、打ち分けが必要な文字の方は打ちにくいストロークに割り当てられてしまう恐れが出てきます。TUT-Codeでは「対」は2ストロークですが、「象」も「称」も「照」も3ストロークになっています。その結果、「対象」「対称」「対照」を使い分けられるようになるのは、かなり後になってからということになります(これは交ぜ書き変換の場合にもあてはまります)。
 この一例だけではあまり説得力がないかもしれませんが、私は直感的に、熟語をまとめて打ってしまった方がすっきりするんじゃないかと思うのです。上の例でいうなら、「対」「象」「称」「照」の4個の漢字の打ち方を別々に覚えるよりも、「対象」「対称」「対照」の3個の熟語の打ち分け方をストレートに覚えた方がすっきりするのではないでしょうか。
 TUT-Codeをずっと使っていると、日頃よく打つ熟語は、漢字を個別に打つというよりも熟語全体を一連の指の動きで打っている感覚になります。こうなると漢字一字ずつの打ち方を個別に覚えるのは熟語の打ち方を覚えるための便法であったかのように思えてきます。ちょうど、連想2ストロークに習熟した人が打つ時にいちいち連想しなくなるのと同じように。

自動的な割り当て

 さて、熟語をどうやって打鍵パターンに割り当てるかです。他の単漢字直接入力方式のように統計的な方法で割り当てることもできるでしょうが、私はもっと簡単な方法で決めることにしました。
 ユーザーがかな漢字変換を使って入力している実際の入力の場面で、第二候補を確定した時にその都度決めるのです。つまり、実際にその熟語が入力されたことによって、直接入力の必要性があると判断するわけです。精度を高くしようと思えば、同じ熟語が入力された回数をカウントして、一定回数に達した時に割り当てるようにすればいいでしょう。
 これは、かな漢字変換の学習機能に似ているように見えますですが、状況(以前に何を確定したか)によって変動することがなく、同じ打鍵動作で常に同じ熟語が入力できるようになります(直接入力なのだから当然のことですね)。

練習抜きで覚えるには

 しかし、それだけでは、割り当てられた熟語の打ち方をユーザーが知ることはできません。そこで、割り当てるのと同時に打鍵方法が画面に図示されるようにします。(メニューの中にショートカットキーが書いてあるのと同じように)ユーザーは、今まで通りの方法で変換入力してもいいし、それを見て次回からは直接入力してもいいわけです。
 いずれにしろ、ある熟語が一度“漢直”に割り当てられたら、それ以降はその熟語が変換入力されるたびに打鍵図が表示されるようにします。つまり、練習テキストはユーザーが日常的に入力する文章の中に埋め込まれるわけです。ずっと“かな漢”しか使っていなくても、繰り返し表示される打鍵図を見てるうちに、打鍵パターンを覚えてしまうかもしれません。そしてある日、そのパターンを何となく打ってみた時に、直接入力の快感を発見することになるでしょう。
 このやり方なら、練習文をくり返し打つ必要なんかなくなります(T-CodeやTUT-Codeのような静的な割り当ての直接入力ならば、予め練習テキストを用意しておくこともできますが、動的な割り当てを行うとそのような練習文を作ること自体がそもそも不可能です)。カリキュラムに沿って学習しなくても、趣味や実務で文章を打っているだけで、直接入力用の辞書も育つし、ユーザーも打ち方を身に付けることができるわけです。

今後の計画

 ここまで読み返してみて、われながら非常にうまいやり方だと思いますが、この方法を思い付いた時から4ヶ月ほど経過した今、少し冷静になって考え直してみても、少なくとも試してみる価値はあるなという気がしています。(幸いここには書きませんでしたが、当初は「ロールプレイングゲーム型直接入力方式」などという妄想にまで膨らんでしまい、物語の設定まで考え始めたりなどして収拾がつかなくなっていました。面白そうだけど、発想だけじゃしょうがない)
 さて、あとは、実際に動くソフトを作って試してみるだけのようです。というわけで、“三本指打法”構想については、ひとまずこれで終わることにします。

(付記)

 このページは96年4月30日に完結したものです。
 その後、「三本指打法」そのものは行き詰まりましたが、熟語を打ちやすくするという発想は「G-Code」と「凧」プロジェクトの中で復活しました。

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