『刑事コロンボ/もう一つの鍵』の空想と現実

 『二枚のドガの絵』の開始早々無言で行われた殺人とは対照的に、『もう一つの鍵』では殺害の実行手順を犯人が空想するシーンが挿入されている。これは珍しい演出(*1)だが、現実の犯行が予定通りに運ばなかったせいで、その後の展開に微妙な綻びが生じてしまうことを効果的に描いている。

(*1)他の作品では、犯人の行動を追いながら犯人の企みを想像させるだけだが、犯人の企みを映像化して見せたうえで実際の犯行を見せるとことにより、その食い違いに注目させる。つまり視聴者を客観的な視点から犯人の視点に引きずり込むわけで、これは映像作品ならではの叙述トリックだといえるだろう。特に、犯行直後の玄関のシーンはうまい。

 今回の犯人は、広告代理店の重役の座についている野心的な女性だ。社長である兄に支配され、恋人との交際に反対されているのが我慢ならない。別れないなら恋人を馘首すると言われたのが引き金となって、その夜、計画していた「事故に見せかけた兄の射殺」を実行に移す。予想外の事態は起きたが、査問会では不幸な事故と評決され、犯人は兄の抑圧から完全に解放される。コロンボがあちこち嗅ぎ回って疑問な点をつついても高飛車な態度で追い払う名犯人ぶりを発揮する。しかし最後には、細かい綻びが致命傷になってしまう(*2)というのは定跡通り。後の作品に登場する女性犯人とは異なり、同情的な描かれ方をしていないだけに、負けっぷりも潔い。

(*2)当時は知る由もなかったが、今にして思えば、計画通りに事が運ばなかったのは恋人役のレスリー・ニールセンのせいだったに違いない。この人が登場すると、ただもうそれだけで周囲の何もかもが変調をきたしてしまうからだ。…とまあ、そんな妄想をしながら見るのもいいでしょう?

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このページは、かみ かずしげが2009年9月19日 20:30に書いたブログ記事です。

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