2009年5月アーカイブ

 ジョージ・ワシントンが少年だったときの話。ある偉人の伝記を読んで感銘を受けたジョージは、自分も何かインパクトのあるエピソードを作っておこうと考えた。そして、父親が大切にしている桜の木とかいうものを切り倒しておいて、後で正直に告白するという筋書きを思いついた。

 こっそり斧を持ち出してみたものの、どれが桜なのかが分からない。これは困ったなあと、庭のあちこちを歩きながら思案しているうちに、持っていた斧をうっかり池の中に落としてしまった。

 すると、池の中から女神が現われて、こう言った。
 「あなたが落としたのは、金の斧ですか、銀の斧ですか、それとも鉄の斧ですか?」

 ジョージは、これはどこかで聞いたことのある話だと思った。欲張って嘘を吐くと何も返してもらえず、正直に答えれば金の斧がもらえるのだ。しかし、金の斧では桜の木を切り倒せない。なんとかして鉄の斧を取り返す方法はないものだろうかと考えてみたけれど、妙案が浮かばない。

 そこで、ジョージは、この経緯を洗いざらい女神に打ち明けてみた。

 ジョージの話を聞いた女神は、にっこりと微笑んで、こう言った。
 「よく正直に話しましたね。今日は特別にプラチナの斧をあげましょう」

 こうして、プラチナの斧を手に入れたジョージ少年は、これでやっと桜の木を切り倒せるぞと思った。しかし、どれが桜の木なのやら、さっぱり分からない。仕方がないので、何も切らずに家に帰った。

 斧が別の物と入れ代わっているのが見つかってから言い訳するよりも、進んで告白した方がいいだろう。鉄の斧をプラチナの斧と交換したのだから、褒められることはあっても叱られることはないはずだ。ジョージはそのように考えた。

 その夜、ジョージはプラチナの斧を父に見せ、今日のできことを正直に話した。すると、ジョージの父は、激怒した。
 「この大馬鹿者! 桜の木なんか、このあたりに一本も生えておらんぞ! 嘘を吐くなら、もっと巧い嘘を考えろ!」

 ジョージ・ワシントンの生家には、激昂した父親がプラチナの斧を振り回して付けた傷が、今でも残っているという。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 ある日、一休さんが歩いていると、橋の前に立札があった。

この橋、渡るべからず
真ん中に大きな穴があいています

 しかし一休さんは、いつものように橋の真ん中を歩いて渡った。幸い、へべれけだったので穴には落ちずに済んだ。


 別のある日、一休さんが歩いていると、橋の前に立札があった。

この橋、渡るべからず
真ん中に大きな穴があいています

 一休さんは素面だったが、立札をよく読まずに橋の真ん中を渡った。どぼ~ん。


 ある日、肉をくわえた犬が歩いていると、橋の前に立札があった。

この橋、渡るべからず
真ん中に大きな穴があいています

 しかし字が読めない犬は、立札に小便をかけてから橋を渡った。穴に気付いて覗き込むと、肉をくわえた犬と目が合った。その犬の肉を奪ってやろうと一声吠えると、くわえていた肉が落ちて行った。それを横から飛び出した一休さんがパクリ。


 ある日、スナフキンが歩いていると、橋の前に立札があった。

この橋、渡るべからず
真ん中に大きな穴があいています

 スナフキンは立札をバラバラにして、その木切れで穴を塞いだ。そして、手すりに腰かけると釣りを始めた。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 犬にくわえられていた肉は、死んだも同然だった。しかし、橋の上で犬の口から解放された瞬間、意識を取り戻した。

 肉は、全身の感覚を研ぎ澄まして、現在の状況を素早く察知した。川面に向かって落ちている! あのときと同じだ。そう、牧場の柵を飛び越えて脱走したときのことだ。

 そのときは、こんな醜い姿ではなく、ふわふわとした毛が生えていた。仲間たちと一緒に草を食べたり、毛が短く足の速い生き物に追いかけられて走り回ったりしていた。全身に力が漲っていた。思い切り地面を蹴ると、軽々と柵を飛び越すことができた。

 そうだ。逃げなくては。あの生き物の牙に捕えられるのは二度と御免だ。肉は大きく息を吸ってから、全身を固くし、水面に叩きつけられる衝撃に備えた。あのときは不覚にも口や鼻から流れ込んだ水のせいで息が止まって溺れてしまったが、もうそのような失敗はしない。

 肉は、いちど水の中に沈んだ後、ゆっくりと浮かび上がった。川の水は、あのとき飲んだ水と同じ匂いと味がした。この川は牧場の近くを流れていた川につながっている。そう直観した肉は、不自由な全身を巧みにあやつり、流れに逆らって泳ぎはじめた。

 首筋に鈍い痛みを感じた。肉は、あの生き物にいきなり咬みつかれたことを思い出して身震いをした。牧場にいた生き物は追いかけたり吠えたりするだけで咬みつくことはなかった。そうだ、牧場に帰ろう。そしてまた仲間たちと一緒に、草を食べたり駆け回ったりしよう。肉はいっそう力をこめて泳ぎ続けた。

 どれくらい泳いだだろうか。意識が朦朧としている。懐かしい仲間たちの声が聞こえたのは、気のせいだろうか。眠りかけていたのか。川上に、見覚えのある橋がかかっていた。あのとき、調子に乗って橋の欄干を飛び越えたりさえしなければ…。肉は、川岸に近づき、力をふりしぼって這い上がった。

 すると、背後で、唸り声がした。首筋に咬みついたやつが、ここまで追いかけて来たのだ。肉は必死で土手を駆け上り、あの牧場に続く橋を渡りはじめた。もう少しで、また以前の生活に戻れるのだ。仲間たちの声が遠くから聞こえてきた。しかし、夢の中でもがいているように、なかなか前へ進まない。

 そして、とうとう追い付かれてしまった。肉は全身を縮こまらせてうずくまった。あいつの足音が近づいて来た。首筋に、熱い息が吹きかけられるのを感じたとき、肉はとっさに身をかわして欄干の隙間から飛び降りた。

 ぽちゃん、と音を立て、肉が沈んでいった。犬は、しばらく川面を眺めていたが、やがてあきらめて、その橋から去って行った。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、あるところに、お爺さんと、お婆さんが住んでいました。

 お爺さんは、ゴルフ場へ芝刈りに行き、お婆さんは、うちで洗濯機を回しました。

 お爺さんが芝を刈っていると、穴に首を突っ込んで抜けなくなり、パタパタともがいている鶴がいました。かわいそうに思ったお爺さんは、鶴を助けてやりました。すると鶴は、嬉しそうに飛んで行きました。

 お婆さんが洗濯をしていると、洗濯機の中から変な音が聞こえてきました。ドンブラコ、グルングルングルン。ドンブラコ、ゴロンゴロンゴロン。フタを開けてみると、大きな桃がぐるぐる回っていました。お婆さんはびっくりして洗濯機を止め、大きな桃を拾いあげました。お婆さんは大きな桃を冷蔵庫に入れてから、もういちど洗濯機を回しました。

 お爺さんが芝を刈っていると、穴に首を突っ込んで抜けなくなり、バタバタともがいている亀がいました。かわいそうに思ったお爺さんは、亀を助けてやりました。すると亀は、嬉しそうにゆっくりと歩いて行きました。

 お婆さんが洗濯をしていると、洗濯機の中から変な音が聞こえてきました。ドンブラコ、クウェクウェクウェ。ドンブラコ、クワックワックワッ。フタを開けてみると、変なアヒルがぐるぐる回っていました。お婆さんはびっくりして洗濯機を止め、変なアヒルを抱えあげました。冷蔵庫はいっぱいだったので、仕方なく変なアヒルを逃がしてやりました。すると変なアヒルは、嬉しそうにワルツを踊りながらヨタヨタと歩いて行きました。

 仕事を終えたお爺さんが帰ってくると、お婆さんが冷蔵庫から大きな桃を取り出しました。お爺さんとお婆さんは、その大きな桃を二人で分け合って仲良く食べました。すると、お爺さんとお婆さんは、すっかり若返ったような気分になりました。

(中略)

 トントントンと戸をたたく音でお爺さんが目を覚ましました。こんな夜ふけに誰だろうと戸を開けてみると、そこには若くて美しい娘が立っていました。「今日、ゴルフ場で…」と言いかけた娘の口を、お爺さんは慌ててふさぎました。振り返ると、お婆さんは疲れてぐっすり眠っているようです。お爺さんは静かに娘を招き入れ、自分の部屋に連れ込みました。

(中略)

 トントントンと戸をたたく音でお婆さんが目を覚ましました。こんな夜ふけに誰だろうと戸を開けてみると、そこには若くて美形の男が立っていました。「今日、ゴルフ場で…」と言いかけた男の口を、お婆さんは慌ててふさぎました。振り返ると、お爺さんの姿がありません。お婆さんは静かに男を招き入れ、自分の部屋に連れ込みました。

(中略)

 お爺さんと若い娘は、困った状態になってしまいました。この非日常的なシチュエーションに興奮しすぎたために招いてしまったことなのですが、ここまで注意深く読んでこられた大人の読者の方々には、これ以上語らなくても、だいたい想像はつきますよね。

 お婆さんと若い男も、困った状態になってしまいました。以下同文。

 するとそこへ、一列につながなった人たちが、ぞろぞろとやって来ました。お婆さんが逃がした変なアヒルは、成長して金のガチョウになっていたのです。

 さあ、みんなで掛け声をかけましょう。

 うんとこしょ、どっこいしょ。
 うんとこしょ、どっこいしょ。

 うんとこしょ、どっこいしょ。
 うんとこしょ、どっこいしょ。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 むかし、ある村に、貧しい樵の夫婦がいました。この夫婦には、こどもが二人いました。男の子の名はヘンゼル、女の子の名はグレーテルといいました。ほかにもきょうだいがいたのですが、みんな大きくなる前に神に召されたという話です。

 ある晩、ヘンゼルが眠れずにいると、とても恐ろしい話し声が聞こえてきました。両親が、また子供たちを森に置き去りにしようと相談していたのです。賢いヘンゼルは、夜が明ける前に、すっかり準備を整えました。気立ての良いグレーテルは、何も知らずに穏やかな寝息を立てています。

 朝になると、父親が、今日はみんなで森にピクニックに行こうと言いだして、母親が、お弁当を作りはじめました。ヘンゼルは喜ぶふりをしましたが、グレーテルは本当に喜んでいました。

(中略)

 ヘンゼルとグレーテルが森の奥で昼寝をしている間に、両親はこっそり家に帰ってしまいました。しばらくして目を覚ましたヘンゼルは、とても落ち着いていました。来るときにポケットの中の小石を落として目印にしておいたのです。ところが、さがしても、さがしても、小石がひとつも見つかりません。ヘンゼルは大声で叫びました。

 「なぜなんだーっ!」

 その声に驚いて、グレーテルが目を覚ましました。グレーテルは目をこすりながら、「こびとさんたちがびっくりして逃げちゃった」と言っています。どうやら、夢を見ていたようです。ヘンゼルが、ゆうべ両親がひそひそと話しているのを聞いたことと、今日ここまで来る道にこっそり小石を落としておいたことを話すと、グレーテルが答えました。

 「その小石だったら、こびとさんたちが拾ってたよ」

 死んだはずのきょうだいは、森にすむ七人のこびとたちになっていたのです。こうして、ヘンゼルとグレーテルの、こびとたちを捜しもとめる旅が始まりました。

 しばらく歩くと、心のやさしいグレーテルは、あの家で病気でねているおばあさんがいるから、お見舞いに行きたいと言いだしました。ヘンゼルは一緒に行こうと言いましたが、グレーテルはだいじょうぶだからと言って、一人でとことこと歩いて行って、その家に入りました。

 いくら待ってもグレーテルが出て来ないので、心配になったヘンゼルがその家に入ってみました。すると、ベットの上に狼が寝ていて、その大きなおなかの中から、何やら声が聞こえます。ヘンゼルが狼のおなかをハサミで切ると、中から六匹の子ヤギがぞろぞろと出て来ました。家の中をすみずみまで捜しましたが、時計の中にもう一匹の子ヤギがかくれているのがみつかっただけで、とうとうグレーテルは見つかりませんでした。仕方なく、ポケットの中に残っていた小石を狼のおなかに詰め込んで、ヘンゼルはその家を後にしました。

 しばらく歩くと、遠くにお菓子でできた家が見えてきました。よく目をこらすと、その家の扉を開けて女の子が入って行くのが見えました。「グレーテルだ!」と思ったヘンゼルは駆け出しました。

 ヘンゼルがお菓子の家に駆け込むと、女の子がびっくりして振り向きました。しかし、その顔を見て、ヘンゼルはがっかりしました。グレーテルではありません。女の子の名前をたずねると、「ミチルです」といいました。お兄さんのチルチルと一緒に青い鳥を捜していて、はぐれてしまったのだという話です。

 ヘンゼルとミチルは、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。

 真っ暗な部屋の中で、ヘンゼルとミチルは魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は鳥の形をしていました。

 しかし、扉を開けて入ってきたのは、チルチルとグレーテルでした。チルチルとグレーテルは、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。

 真っ暗な部屋の中で、チルチルとグレーテルは魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は青い色をしていました。

 しかし、扉を開けて入ってきたのは、親指小僧と赤頭巾でした。親指小僧と赤頭巾は、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。

 真っ暗な部屋の中で、親指小僧と赤頭巾は魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は青い色をしていて鳥の形をしていました。

 扉を開けて入ってきたのは、今度こそ恐ろしい魔女でした。魔女は、部屋の中の匂いをくんくん嗅いで、こどもたちがお菓子を食べ散らかしたことを知りました。「さてさて、こどもたちは、どこに隠れたのかな?」と、魔女は耳をすましました。どうやら地下室にかくれているようです。

 そのとき地下室では、こどもたちが、魔女が帰って来たことにも気付かずに、それぞれの幸せを追い求めるのに夢中になっていました。

 そのことに気付いた魔女は、大声でこう一喝しました。

 「どいつもこいつも体ばかり成長して、おつむは空っぽのままじゃないか! そんなところで大人のまねごとなんかしてるんじゃないよ!」

 すると、地下室から聞こえていた物音がぴたりとやみました。

 こどもたちの返事を、魔女は待っています。

 「…………」

 しかし、みんなは怖くてブルブルふるえているだけで、何も返せずにいるようです。魔女は一段と厳しい表情になり、地下室に向かって、こう叫びました。

 「あかん、あかん。『あんたがそれを言うな!』やろ。もういっぺん最初からやり直しや!」

 こうして、恐ろしい魔女の、地獄のような特訓が始まりました。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、ある国に、とっても小さな女の子がいました。お姉さんたちや母親には「親指姫」と呼ばれて、たいそう可愛がられていました。

 ある日、お姉さんたちと母親が、お城の舞踏会に出かけることになりました。でも、小さな親指姫だけは、お留守番です。

 「ああ、わたしも舞踏会に行きたいなあ」
 そんなことを思いながら、東の窓に座ってお月様をながめていると、魔法使いのお婆さんが現われました。
 「そんなに行きたいかい? だったら魔法で連れて行ってあげよう」
 「ほんとうに? でも、着ていく服がありません」
 「だったら魔法で、ほれ、この通り」
 魔法使いのお婆さんが、魔法の杖を一振りすると、きれいなドレスが現われました。
 「まあ、すてき」
 うれしくなった親指姫は、新しいドレスに着替えようと、着ている服を全部脱いでしまいました。
 「でも、このドレスは、わたしには大きすぎます」
 「だったら魔法で、ほれ、この通り」
 親指姫は、みるみる大きくなって、ドレスにぴったりのサイズになりました。
 「ありがとう! お婆さん」
 親指姫は、裸のままでお婆さんに飛びついて大喜び。
 「ほらほら、はやく着なさい。このごろは裸が出るだけで過剰に反応する人たちがいるからね…」
 「はーい」
 親指姫は、素直にドレスを身にまといました。
 「それでは、行ってきまーす」
 そのまま駆け出した親指姫を、お婆さんが呼び止めます。
 「おやおや、お城まで走って行くつもりかい?」

(中略)

 「このうちには、カボチャがないのかい?」
 お婆さんはちょっと困っていました。
 「ネズミさんはいっぱいいました」
 親指姫は、ネズミを6匹もつかまえてきました。
 「何か野菜はないのかい?」
 親指姫は、何だか変な野菜のようなものを掘って来ました。
 「何だいこれは?」
 「裏の薮に生えてました」
 「まあ、なんとかやってみよう」
 そう言うと、お婆さんは魔法の杖を振りました。すると、変な野菜がスポーツカーのような馬車になりました。魔法の杖をもう一振りすると、ネズミたちは真っ白い馬になりました。
 「さあ、これで6頭立ての馬車ができた」
 さっそく馬車に乗り込む親指姫に、お婆さんは言いました。
 「いいかい、よくお聞き。この魔法は、夜の半分の間しか効かないのだよ。あのお月様が南の空に上ってしまう頃には、みんな元の姿に戻ってしまうから、その前に必ず帰ってくるんですよ」
 「はーい。わかりました」
 「では、気を付けて行っておいで」
 「行ってきまーす」
 魔法の馬車は、お城を目指して猛スピードで突っ走りました。

(中略)

 親指姫は王子様と踊っていました。こんなに胸がどきどきするのは初めてです。すっかり夢中になって、時間が経つのも忘れていました。
 王子様も親指姫のことがすっかり気に入っていました。でも、この娘はなぜ裸足なんだろう? 王子様が、ふとそんなことを思ったとき、時計の鐘が十二時を打ち始めました。

 すると、親指姫のドレスがいきなりパッと消えました。
 「はっ、はっ、裸?!」
 さっきまでニコニコしていた王子様は、額に青筋を立てて怒り始めました。王子様は、最近、交易をはじめた光の国や大人の国との関係悪化を気にして、とても神経質になっているのです。
 親指姫は、王子様の手を振りほどいて、その場から逃げ出しました。
 「その娘をつかまえろ!」
 そう王子様は叫びましたが、その場の誰もが親指姫の姿を見失ってしまいました。魔法が解けて、元の小さな親指姫に戻っていたからです。

(中略)

 お城から駆け出した親指姫は、急いで馬車に乗り込みました。どうにか間に合ったようです。魔法の馬車は親指姫のうちを目指して猛スピードで突っ走ります。

 しかし、走っているうちに、とうとう魔法が解けてしまいました。まず、スポーツカーのような馬車が元の変な野菜に戻ります。すると、びっくりした6頭の馬たちは変な野菜を思いっきり蹴っ飛ばしました。そして、6頭の馬たちも元の6匹のネズミに戻りました。

 親指姫は、ロケットのような形をした変な野菜に閉じ込められたまま、空高く舞い上がって、お月様のまわりをぐるりと一周してから、遠い、遠い、シナの向こうの島国まで飛んで行ったということです。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、竹取の翁がいた。あるとき、竹を切りに行った翁は、光り輝く筍を見つけた。翁は、その不思議な筍を掘り出して、うちへ持ち帰った。

 さて、どのように料理したものかと翁が思案していると、いつの間にか隣に座っていた媼が、こう言った。
 「まあ、こんな変てこな野菜は初めて見ましたよ」
 「またトボケたことを…。ばあさん、これは、筍じゃ」
 「あらあら、そうでしたかねえ」
 媼はくすくす笑いながら、筍に庖丁を入れた。
 すると、筍の中から小さな可愛い女の子が出てきた。

 翁と媼は、女の子を「かぐや姫」と名づけて、たいそう可愛がって育てた。かぐや姫は、すくすくと育ち、あっという間に、村一番の器量良しになった。

 噂を聞きつけた男たちが、かぐや姫を一目見ようと集まって来た。しかし、かぐや姫は誰も相手にせず、月を眺めては溜め息をついてばかりいる。その様子を垣間見た男たちがさらに噂し合って、話には尾鰭が付き、「器量良し」が「天女」へと変わっていく。

 そんなある日、竹取の家に、さる公達が訪れた。天女がいるという話は本当なのかという用向きだ。これを聞いて、翁は腰を抜かしたが、媼はいつものよう笑みをうかべて、こう答えた。
 「ええ、まことの天女かどうかは存じませんが、天女だと噂されている娘ならおりますよ」
 そして、かぐや姫を呼び寄せた。

 かぐや姫は、美しいだけでなく聡明でもあった。適当なことを言ってあしらえる相手ではないと察して、このように語った。
 「私には、この地に生まれる前に、どこかで月を眺めていたという思い出があります。それがどこであったのかは分かりませんが、ここから見る月と同じ姿をしておりました。天上界から見る月がどのような姿であるかを知りません。そのようなわけで、残念ですが、私には自分が天女であるかどうかをお答えすることができません」

(中略)

 かぐや姫は、以前の快活さを失い、ますます塞ぎ込んでしまった。ある夜、かぐや姫が月を眺めていると、媼が声をかけた。
 「どなたか、遠くの御方を思い出しているのですね?」
 「なぜ、そのようなことを…」
 かぐや姫が振り向くと、媼はただにっこりと笑っていた。

(中略)

 ある日、件の公達が、天女の羽衣を携えてやって来た。これはある漁師が浜で拾ったという天女の羽衣である。もしも、あなたが天女であるのなら、きっぱりとあきらめよう。しかし、天女ではないのなら、ぜひとも輿入れを願いたい。この無理難題には、さすがの媼も困ってしまった。
 一旦奥の部屋に引っ込んで、翁と媼が考えあぐねていると、かぐや姫の声がした。
 「おじいさん、おばあさん、お話ししたいことがあります」
 翁が返事をすると、かぐや姫は静かに襖を開け、部屋に入ってきた。そして、ゆっくりと話し始めた。

 「実は、私は外つ国で生まれた者なのです。ここへ来たときにはすっかり忘れておりましたが、月を眺めている間に少しずつ思い出してきたのです。ある夜、その国のお城で、踊りの宴が催されました。私は馬車に乗ってお城へ行き、ある方と一緒に踊っておりました。そのあと…」
 かぐや姫は、しばらく目を閉じていたが、やがて目を開けて話を続けた。
 「その方が何か叫んで、私は急いで馬車に乗ったということしか思い出せません。何か悪いことが起きたのだと思います。その方が御無事かどうか。御無事ならば、もう一度お目にかかりたい。ただそのことばかりが胸の内に溢れてくるのです」
 そこまで聞くと、翁はこう言った。
 「それでは、あの御方にはお断り申し上げるしかあるまい」
 「あの御方とは、どなたのことですか」と、かぐや姫が尋ねると、媼が答えた。
 「この前の、都からおいでになった公達さまですよ。ちょうど今も、お見えになってるところです」

(中略)

 天女の羽衣の話を聞いたかぐや姫は、「それでは、天女の舞いを舞うことにいたします」と言って、翁と媼を驚かせた。
 「今宵は十五夜です。天女の羽衣の力をお借りすれば、生まれた国に帰れるかもしれません。いずれにしても、これ以上、答えを遅らせると御迷惑をおかけすることになりますので」
 そして、かぐや姫は居住まいを正し、三つ指を突いた。

(中略)

 天女の羽衣を身にまとったかぐや姫が、家の中から出て来た。翁と媼、そして公達が見守る中、かぐや姫は踊り始める。

 かぐや姫は、舞踏会で踊った輪舞曲を思い出した。王子の笑顔を思い出した。王子の手の温もりを思い出した。ひんやりした床の感触を思い出した。胸のときめきを思い出した。そして、12時を打つ鐘の音を思い出した。王子の叫び声を思い出した。恥ずかしさのあまり、王子の手を振りほどいたことを思い出した。その場から逃げ出してしまった自分を思い出した。それから、優しかった母と姉たちを思い出した。母が作ってくれた小さな服を思い出した。あのとき言った自分の言葉を思い出した。

 そして、かぐや姫は、静かに踊りを終えた。

 「この羽衣はお返しいたします。本当の天女がお困りでしょうから」

 かぐや姫は宙高く舞い上がり、羽衣をはらりと脱ぎ捨てると、夕焼け空の彼方へと消えて行った。

 羽衣を受け止めて呆然とする公達。名残り惜しげに空を仰いでいる翁。そして、満足げに微笑む媼。その背後には、竹林を透かして見える望月の姿。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、ある森に、七人の小人が住んでいました。

 ある日、小人たちが仕事から帰ってくると、家の前に裸の娘が倒れていました。
 「誰だろう?」「きれいな人だな」「真っ白だね」「死んでるのかな?」「眠ってるんだよ」「寝たふりしてるのかも」「よーし、くすぐっちゃえ」
 小人たちは一斉に、裸の娘の体のあちこちを、こちょこちょとくすぐりました。
 「起きないなあ」「何も感じないのかな」「雪のように冷たいね」「やっぱり、死んでるんじゃないかな」「ぐっすり眠ってるんだよ」「悪い人に睡眠薬を飲まされたのかも」「よーし、もう一回やっちゃえ」
 小人たちは一斉に、裸の娘の体のあちこちを、

 ――ここで、シャハリヤール王が、いきなり話を遮った。「ああ、つまらん。どうせまた白馬に乗った馬鹿な王子が現われて、めでたしめでたしというやつだろう。こんな見え見えの話はもう沢山だ。もっと驚嘆の限り驚嘆するような話を聞かせてくれ!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と三匹の子豚

 ――シャハラザードが口を開く前に、シャハリヤール王が再び遮った。「もっと真面目にやれ!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と七人の恋人

 ――シャハラザードが口を開く前に、シャハリヤール王がまたまた遮った。「首を刎ねられたいのか!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と四十人の盗賊

 おお、幸多き王様よ、わたくしの聞き及びましたところでは、

 ――ここまで話した時、シャハラザードは暁の光が射すのを見て、慎ましく口を噤んだ。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 ある農家の畑を子鹿が荒らした。それを知った農夫は銃で撃ち殺そうとしたが、息子に止められて見逃してやった。

 後日、成長した鹿が、今度は屋根にのぼって糞をしていた。今度はさすがに我慢できずに、農夫は撃ち殺してしまった。少年は泣いて鹿の墓を作った。それを見ていた馬が、鹿の角を自分の頭につけてくれと頼んだ。少年が馬の頭に鹿の角をつけてやると、馬は「おかげでよく見えるようになった」と言って喜んだ。

 数日後、農夫の家の屋根に、変な角が生えてきた。どうやら鹿の糞から芽が出たようだ。近所の人たちは「あの家は屋根に変なものが生えているし、鹿の角を生やした馬もいる。馬鹿が伝染るから近づかんほうがいい」と噂した。それを聞いた馬は、こう言った。「伝染るんではなくて、映るんです」

 この話は、鹿の角を生やすと馬鹿が映るものがよく見えるようになると言いたいようである。


※都合により、予定していた内容を変更してお届けしました。なお、「白雪姫と四十人の盗賊」は5月10日(日)午前7時に公開します。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、ある国に、四十人の盗賊がいました。

 ある日、盗賊のお頭が突然こんなことを言いだしました。「今回は、白雪姫に出てくる魔法の鏡をいただいてくるダベェ~!」
 すると、三人の手下が(中略)、変なメカに乗って発進しました。

 「えー。何ですって? 四十人もいないって? いますよ、ホラ。残りの三十六人は、こんなふうになってるのよー」と、手下の一人の出っ歯の男が言いました。
 「いつものインチキでまんねん」と、もう一人のがっしりした体格の男が言うと、女ボスが、「お前たち、何をごちゃごちゃ言ってるのさー。さっさと白雪姫を誘拐してくるんだよー」

 白雪姫が、いつものように七人の小人の家で留守番をしていると、「リンゴはいらんかねー」という声が聞こえてきました。
 扉を開けると、お婆さんがリンゴの入ったかごを提げて売り歩いています。
 「おばあさん、リンゴを一つくださいな」と、白雪姫が声をかけると、出っ歯のお婆さんが振り向いて、「あらまあ、本当に不用心な子ねえ」

 しばらく後、小人たちが家に帰ってくると、白雪姫の姿がありません。床には一口かじったリンゴが落ちていて、テーブルの上には一枚の紙きれがありました。

白雪姫はあずかったわよー。返して
ほしかったら、魔法の鏡を持って、
岩山の秘密の隠れ家まで来てねー。
          四十人の盗賊より

 これを読んで、眼鏡をかけた鼻下鬚の小人が、こう言いました。
 「諸君。白雪姫が誘拐された。ただちに出動!」
 「ラジャー!」
 五人の若い小人が、五種類の小鳥に変身しました。

 この様子を魔法の鏡で見ていた継母は、意地悪そうな笑みを浮かべて、こう言いました。
 「誰が白雪姫なんかを助けに行ったりするもんですか」
 そして、鏡に向かって、こう言いました。
 「鏡よ、鏡。世界で一番まぬけな泥棒は誰だい?」
 すると、鏡は、こう答えました。
 「それは、白雪姫を誘拐して岩山の洞窟に閉じ込めた三人組の泥棒です」
 窓の外で、五羽の小鳥が飛び立つ音がしました。

 「一体どうなってるんだい? 誰も魔法の鏡を持って来ないじゃないか!」
 「どうしたんでしょうね~」
 「ホンマやなー」

 岩山の洞窟に閉じ込められている白雪姫が目を覚ましました。
 「ここは、どこかしら?」
 白雪姫は起き上がってあたりを見回しました。どこもかしこも真っ暗でしたが、遠くの方に一筋の光が見えました。
 「あれは、何かしら?」
 立ち上がって、光の方へ歩き始めると、何かが足にあたりました。
 「これは、何かしら?」
 拾い上げると、何だか壷のような形をしていました。それを抱えて、白雪姫は光に向かって歩き続けます。

 「お前たち、いつまでもボケーッと待ってないで、何とかおしよ!」
 「アラホラサッサー!」

 白雪姫は、やっと光の当たっている場所にたどり着きました。洞窟の天井に小さな穴があいていて、そこから外の光が射し込んでいるのでした。
 「あんなに高いところに、どうやって上ったらいいかしら…」
 すると、その穴から、五羽の小鳥が飛び込んできました。
 「まあ、小鳥さんたち。わたしを助けに来てくれたのね!」
 小鳥たちは嬉しそうにさえずって、白雪姫のまわりを飛び回りました。
 「でも、どうやったら、ここから出られるのかしら」
 白雪姫がそう言うと、小鳥たちは白雪姫の目の前に集まって、ぐるぐると回転し始めました。そしてどんどん勢いよく回ります。すると、つむじ風が起きて、飛び散った小さな羽が、白雪姫の鼻に入りました。白雪姫がくしゃみをすると、持っていた不思議な壷がぐらぐらと踊りはじめました。

 突然現われた変なデザインの巨大なメカが、白雪姫の継母のいるお城を壊して、魔法の鏡を奪って行きました。すると、継母はハッとしてこう言いました。
 「ああ、わたしは何をやっていたのでしょう! 世界で一番大切な白雪姫がさらわれたというのに…」
 継母は、これまでずっと魔法の鏡に取り憑かれていたのです。

 すると、そこへ魔法の絨毯に乗った白雪姫が帰って来ました。
 元に戻った優しい継母と白雪姫は抱き合って喜び合いました。五羽の小鳥たちと、メタボな体形の魔王も、みんな一緒に大喜びです。

 その頃、三人の盗賊は、魔法の鏡の前で…。
 「開け、ゴマ! おかしいな、何も映りませんよー」「ほなら、開け、シロゴマ!」「白雪姫だけに白ゴマねー」「何やってるんだい、こっちにお貸しよ。開け、ウインドウ! あれ? 違うのかい?」「変ですねー」「おや? ここんとこにリンゴのマークがありまっせ」「なるほどー。白雪姫だけにリンゴだったのねー」「それじゃ、開け、アップル!」「違いますよ、開け、リンゴ!」「ほなら、開け、ドクリンゴ!」「お前、今、何て言った? あたしゃ何だかイヤーな予感がするよ…」

 すると、魔法の鏡の中から、盗賊のお頭の声が、「このアカポンタン!」(後略)

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、ある国の王女が、たいへん困り果てていました。
 「ああ、こんなドレスを着てパレードをするなんて、やっぱり私にはできないわ」
 夜が開ける前に、王女はこっそりお城を抜け出して、行くあてもなく歩きはじめました。

 同じころ、隣の国の王子は、すっかりうつけたような表情をして街をさまよっていました。
 「ああ、あの舞踏会の娘は、いったいどこへ行ってしまったのだろう…」
 忽然と姿を消した娘のことが忘れられずに、毎日毎夜、昼も夜もなく、街中を尋ね歩いているのです。どこの家に行っても、あの娘はいません。それどころか、自分は王子だと言っても誰も信じてくれず、陰では笑い者にしているようです。おまけに、今夜は犬に吠えたてられ、逃げようとしたところを尻に咬みつかれ、白タイツを食いちぎられてしまいました。こんな姿でうろうろしているところを人に見られたら…。とにかく、明るくなる前にお城に帰らなくてはなりません。
 ところが、街はずれに繋いでおいた白馬がいなくなっています。
 「なんてことだ。これでは朝までに帰れないじゃないか!」
 王子が頭をかかえていると、どこからともなく魔女が現われました。
 「何だか困っておいでのようだねえ…」

 一方、隣の国の王女は、こうなったら森の中に隠れるしかないと思いました。ほの暗い森に足を踏み入れて、しばらく歩いていると、落ち葉の積もった地面に、うっすらと白いものが見えました。近くまで行ってみると、若い娘が裸でうつぶせに倒れていました。
 貧しくて服も買えない乞食というものがいるとは聞いていたけれど、まさかこの国にいるとは思ってもみませんでした。王女は、木の枝を拾ってきて、恐る恐るつついてみました。
 すると、乞食娘は「うーん」と唸って、寝返りをうちました。その顔を見て、王女は驚いてしまいました。乞食娘の顔は、王女と瓜二つだったのです。
 世間知らずの王女も、さすがにかわいそうな気がしてきました。そこで、お城に連れて帰って、服を着せてやろうと思いました。
 「さあ、早く起きなさい」

 白馬を失ったかわりに白タイツを手に入れた王子は、とぼとぼとお城への道を歩いていました。何か大事なことを忘れているような気もしましたが、何だかよく分かりません。親切なお婆さんが何か言っていましたが、頭がぼんやりしていて思い出せません。
 「おなかがすいたなあ…」
 ポケットをたたくと、ビスケットが一つ出てきたので、それをむしゃむしゃ食べました。

 王女が、衣装部屋に連れて行くと、それまでぼんやりしていた乞食娘は、あのドレスを見て目を輝かせました。
 「あんた、これが見えるの?」と、王女がたずねると、乞食娘はこっくりとうなずきました。
 王女は、自分に見えないドレスが乞食娘には見えることに腹を立てていましたが、ふと、いいことを思いつきました。この乞食娘をパレードの馬車に乗せてやろう。そうすれば、もう逃げたり隠れたりしなくてもすむ。我ながらこれは名案だと、王女はにんまりしました。

 ポケットを叩いてはビスケットを食べ、ビスケットを叩いてはビスケットを粉々にしてしまったりなどしているうちに、王子はおなかがいっぱいになりました。街外れの草むらの中で、王子はごろりと横になって一眠りしました。

 王女に扮した乞食娘のパレードを、街中の人びとが見物しています。その様子を陰からこっそり伺っていた本物の王女は、口惜しくて仕方ありません。あのドレスが見えない人が一人もいないとは思ってもいなかったのです。こんなことなら自分で着てパレードをすればよかった。そう思ってみても、もう後の祭りです。

 パレードが隣の国に入ったあたりで、一人の若者が「王女は裸だ」と叫んで、街中が大騒ぎになりました。これを見て、本物の王女は、やっぱり自分じゃなくてよかったと胸を撫で下ろしました。しかし、そのすぐ後で、その若者が実は隣の国の王子で、どうやら王女に一目惚れして街中を捜し回っていたらしいと聞くと、ああやっぱり自分だったらよかったのにと、地団駄を踏んで悔しがるのでした。

 そして、行き場のなくなった本物の王女は、あの娘が倒れていた森の方へと歩いて行きました。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 眠り姫は、森への道を歩いていた。どうして、こんなことになってしまったのか。あの娘さえいなければ…。あの娘が王子と結ばれるなんて、絶対に許せない…。
 そこまで考えて、眠り姫は、はっとした。いけない。これでは私に呪いをかけた魔女と同じになってしまう。そうなのだ。魔女の呪いのせいで、私は百年間も眠らされていたのだ。

 勇敢な若者がやってきて口づけをすると目が覚めるのだと聞かされていたが、眠り姫が目覚めたときには、そんな若者はどこにもいなかった。しかし、流行遅れの服を着ている姿を誰にも見られなかったのはかえって好都合だった。
 それから毎日、新しい服を買いに行かせて、古い服は火にくべさせた。今、眠り姫が着ているこの服は、小間使いが灰の中からこっそり拾ったものだ。こんな灰だらけのみすぼらしい服を大事にとっておくなんて…。そのときはそう思ったが、これが役に立った。いや、結局は何の役にも立たなかったのだけれど。

 白馬に乗った王子様を待っているだけでは駄目。だから、こっちから派手なパレードをして、美しく着飾った私を見てもらおうと考えたのだった。ところが、あの仕立て屋が持ってきたのは、あのいやらしい布地だった。みんなが、その美しさを絶賛したが、私には見えなかった。お城の中だけだったらいいけれど、街へ出るなんて、とても無理だった。私よりも馬鹿な男たちの、いやらしい視線を浴びるのだと思うと、ぞっとした。

 それなのに、あの娘にも、街中の男たちや女たちの目にも、あの布地は見えたのだ。見えなかったのはただ一人、隣の国の王子だけだった。こんな馬鹿な話があるだろうか。まるで悪夢ではないか。そうだ。これは夢に違いない。私はまだ眠っているのだ。

 これが夢だったら、何かお告げが隠されているはずだ。「衣装にこだわるのは馬鹿なことだ」とか。ほかにも何かあるかもしれない。「衣装を捨てて裸になれ」とか。そういえば、あの娘が裸で倒れていたのは、このあたりだった。そうだ。ここで裸になって倒れていれば、もう一人の私がやって来て…。

 なんだ。こんな簡単なことに今まで気付かなかったなんて。そう思いながら、眠り姫は服を全部脱ぎ捨てて、枯れ葉の上にうつぶせになった。土臭くて寝心地もよくないが、今は我慢するしかない。夢の中でも歩き疲れたのだろうか、まもなく、眠り姫は寝息をたてはじめる。

 甘い香りのするふかふかしたものに包まれているのを感じて、眠り姫は目覚めた。すると、そこは、チューリップの花の中だった。

**

 ある日の事でございます。眠り姫が目覚めると、小さな蜘蛛が一匹、(中略)。下人の行方は、誰も知らない。


**

 また目覚めたとき、もはや眠り姫には自分が何者なのかさえ分からなくなっている。古今東西・老若男女の有名・無名の登場人物が重なり合っているのである。彼女は苛々してこう言った。「ぶっ殺されたい?」

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、「猿蟹合戦」という話があったのじゃが、今ではそれが「さるかにばなし」という題名に変わってしもうて、話の筋も教育的な内容に書きかえられてしもうたそうな。わしは、そんな話なんぞ読んだこともないし読んでみようとも思わんのじゃが、昨今の世情を見りゃあ、だいたいの見当ぐらいはつくというもんじゃて…。

 ある日、蟹がおにぎりを持って歩いていると、猿がこう言った。
 「蟹くん、蟹くん、そのおにぎりと、この柿の種を交換しよう」
 「えーっ?」と、蟹がためらっていると、猿がこう続けた。
 「何を迷っているんだい。おにぎりは食べてしまえばそれっきりでおしまいだけど、この柿の種を蒔いて柿の木を育てたら、毎年毎年、柿の実がたくさん成って、いくらでも食べられるんだよ」
 「えーっ!」と、蟹が驚いていると、猿は得意気にこう言った。
 「未来に備えて投資するのは常識だよ」

 そういうわけで、蟹はおにぎりと交換して手に入れた柿の種を蒔き、毎日毎日、水をやったり肥料をまいたりして、大切に育てた。
 それから数年後。立派に育った柿の木に、ついにいくつも実が成った。蟹は喜んで、柿の実を取ろうとしたが、どうしても手が届かない。そこで、蟹は、「どうせ、渋柿にちがいない」とつぶやいて、あきらめようとした。
 すると、いつかの猿がやってきて、「おいおい、蟹くん、それは負け惜しみってやつだよ。僕が、木に登って取ってきてやろう」と言ったかと思うと、するすると登って行った。ところが猿は、もぎ取っては食べ、もぎ取っては食べしているばかり。柿の実は、とうとう最後の一個だけになってしまった。
 「おーい、猿くん、ぼくにも一個おくれよ」
 「そんなに食いたきゃ、これでもくらえ」
 猿は蟹めがけて柿の実を投げつけた。

 それを見て、怒った栗は火の中に飛び込んで、爆ぜて猿に体当たりしてやろうと思ったが、ここには囲炉裏がない。急いで落ち葉をかき集め、焚き火をしようとライターを取り出したところへ、臼先生が駆けつけた。
 「こらこら、君たち、何をしているんだい?」
 臼先生は、猿や蟹が通っている学校の教頭で、これはどうでもいいことだが、いつも赤シャツを着ている。臼先生は、まず、木の上にいる猿にこう言った。
 「猿さん、食べ物を粗末にしてはいけません。それに、また蟹さんをいじめていましたね。いじめはいけませんよ」
 臼先生は、次に、落ち葉の山の脇に突っ立っている栗にこう言った。
 「栗さん、焚き火をしてはいけません。ダイオキシンが出て地球にやさしくないって習ったばかりでしょう。それに、子どもがライターなんか持っていてはいけません」
 臼先生は、最後に、地面に倒れていた蟹を助け起こして、こう言った。
 「蟹さん、大丈夫でしたか?」

 …とまあ、だいたいこんなふうに、猿と蟹と栗が、みんな仲直りしました、とかなんとかいうような話になっとるんじゃろうが、わしは、こんな中途半端な残念さでは到底納得できんのでな…。

 その夜。

蟹:ムカツクよなー、ウスノロのやつ
蜂:あいつ、うちではオニヨメの尻にしかれてるらしいぞ
蟹:ケガ人の方が先だろ、ふつー
栗:おめー、何で来なかったんだよ?
蟹:それ知ってる
蜂:行こうとしたんだけど、途中で…
蟹:キネコさん、キネコさんって、職員室で
栗:ウスノロにチクっただろ!
蜂:まさか
蟹:寝言で言ってたってさ
栗:タバコ、バレるとこだったんだぞ
蜂:チクってないって
猿:じゃあ何でウスノロが来るんだよ
蜂:見てたんだよ、双眼鏡で
蟹:腰をふりふり
栗:覗き魔かよ
猿:だったらいいけど、あんまり調子に乗るなよ
蜂:それ、キモイんですけど
猿:ママがPTA会長だからって
栗:理事長だろ
蜂:両方だよ
猿:女王様気どりのママさんがいなけりゃ
栗:いばんなよ
猿:お前なんか殺虫剤でシューだ
蜂:やってみれば?
猿:やってやるよ
栗:また、アレをやろうよ
蟹:あれって何?
猿:アレは面白かったよな~
蜂:あ、塾に行かなきゃ
栗:忘れたのか?
猿:逃げやがったな
蟹:何だったっけ
猿:脳ミソが蟹ミソだからな
栗:おまえがやつのパンツ下ろしただろ
蟹:あー、あれか
猿:で、俺がやつの尻の針を引っ張ってやったら
栗:やっと思い出したか
猿:www
栗:wwww
蟹:わろた。。。。。
栗:おめー、同じ昆虫のくせに
蟹:昆虫じゃねーよ
蜂:いっしょにすんなよ
猿:あ、やべえ。姉貴帰ってきた。男と
蟹:甲殻類だよ
栗:またサボりか?
蜂:コンビニんとこにスズメバチが
蟹:あいつ、アネキなんていたっけ?
栗:ヘタレだな
蜂:針だらけのやつには言われたくないな
栗:あいつの飼い主のことだよ
蟹:なんだ人間か
蜂:あのアネキはヤバいよ
栗:そそ
蟹:パンツ下ろしてやろーか
蜂:人間のオスに殺されそうになってたぞ
栗:おまいさんは見さかいがねーのか
蟹:何で?
栗:見たのか
蜂:ずっと前、あいつんち行ったとき
蟹:あいつんち、海から遠いんだろ?
蜂:オスに押え込まれて、死ぬって叫んでた
栗:いや、だからそれは…
蜂:そだね、山の方
栗:で、そのオスを刺してやったのか
蜂:いや。でも教えてやろうと思って
蟹:じゃあ行けねーな
蜂:あいつの部屋に行ったら
蜂:肩をふるわせてた
蜂:泣いてたんだと思うな
栗:いや、それも何か違うような…
蜂:じゃ何だよ
猿:ちくしょ~
栗:それは…
蟹:おかえり。どしたの?
栗:たぶんアレだよ
蜂:アレって何だよ
栗:シェーカー振ってたんじゃないかな
蟹:それ、何かで見たぞ
栗:猿酒のバナナシェイクとかさ
蜂:あー、あれはうまかったよな
猿:あ~うい~
栗:また飲んでる?
猿:わるいか~
蜂:ちょうど酒の話をしてたとこ
栗:べつに
蜂:でも、学校で飲むなよ
栗:俺は顔には出ないとか言ってさ
猿:おいハチ公!
蟹:もともと真っ赤だってーの
蜂:何だよ、エテ公!
猿:明日、たのしみにしとけよ
栗:やるのかよ
猿:じゃ~もうねる
蜂:冗談だろ
栗:何か本気っぽかったな
蜂:マジ?
栗:マジで
蟹:マジだったよね

 その翌日。蜂が学校から帰っていると、いきなり栗が飛んできてぶつかった。猿が飛んでいる蜂めがけて投げつけたのだ。蜂が落ちてくると、蟹がハサミでパンツをつかんでずり下ろす。そこへ猿が馬乗りになって、尻の針をつかんでこう叫ぶ。
 「引っこ抜いてやろうか?」
 すると蜂は、じたばたともがきながら、甲高い悲鳴をあげはじめる。
 「抜かないで~、抜かないで~。死ぬ~。死ぬ~」

 すると、たまたまその真上にあった柿の枝から、双眼鏡を持った臼先生が落ちてきて、ぐしゃり。

 薄れゆく意識の中で、蜂はこう思った。
 「やっぱり、あのとき、猿は泣いていたんだろうな…」

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、ある村に、ジャックという男の子がいました。ある日、ジャックはジャックのお父さんと一緒に、ジャックの家で飼っていた牛を売りに、ジャックの家のある村の隣の町まで出かけることになりました。

 ジャックとジャックのお父さんがジャックの家で飼っていた牛を牽いて歩いていると、それを見ていた男の人がこう言いました。
 「間抜けなことをしているな。一人は牛に乗って行けばいいんじゃないか?」
 なるほど、それもそうだなと思ったジャックのお父さんは、ジャックをジャックの家で飼っていた牛に乗せました。

 ジャックを乗せたジャックの家で飼っていた牛をジャックのお父さんが牽いて歩いていると、それを見ていた別の男の人がこう言いました。
 「子どもを甘やかしてるな。子どもを歩かせればいいんじゃないか?」
 なるほど、それもそうだなと思ったジャックのお父さんは、ジャックをジャックの家で飼っていた牛から降ろしました。そして、ジャックのお父さんはジャックの家で飼っていた牛に乗って、ジャックのお父さんが乗ったジャックの家で飼っていた牛をジャックに牽かせることにしました。

 ジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛をジャックが牽いて歩いていると、それを見ていたまた別の男の人がこう言いました。
 「ひどい親だな。子どもも乗せてやったらいいんじゃないか?」
 なるほど、それもそうだなと思ったジャックのお父さんは、ジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛から降りて、ジャックをジャックのお父さんが降りたジャックの家で飼っていた牛に乗せました。そして、ジャックのお父さんは、ジャックのお父さんが降りてジャックが乗ったジャックの家で飼っていた牛の上のジャックの後ろに乗りました。

 ジャックとジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛が歩いていると、川にさしかかりました。すると、ジャックとジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛は、こう一人ごとを言いました。
 「重たいな。この前みたいに川に飛び込んだら軽くなるんじゃないか?」
 なるほど、それもそうだなと思ったジャックとジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛は、ジャックとジャックのお父さんを乗せたまま、川に飛び込みました。

 ところが、ジャックの家で飼っていた牛が思ったようにはなりませんでした。ジャックとジャックのお父さんは軽くなるどころか、ジャックの服とジャックのお父さんの服に川の水がしみ込んで、かえって重くなってしまったのです。しかも、ジャックのお父さんは、得体の知れない妙な生き物に変身してしまいました。

 ジャックと得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんを乗せたジャックの家で飼っていた牛が歩いていると、またまた別の男の人がこう言いました。
 「エコドライブだな。しかし、牛は二酸化炭素を排出するけど、この緑豆を植えると二酸化炭素を吸収するから、その牛を緑豆と交換した方が、もっとエコになるんじゃないか?」
 なるほど、それもそうだなと思った得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんは、そのまたまた別の男の人の言った通りに、ジャックの家で飼っていた牛を、そのまたまた別の男の人の緑豆と交換しました。

 ジャックと得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんが、ジャックの家で飼っていた牛と交換した、またまた別の男の人が持っていた緑豆を持って、ジャックの家に帰ってくると、ジャックのお母さんは、嬉しそうにこう言いました。
 「おかえりなさい。まあ、おいしそうな緑豆ね。さっそく緑豆の料理を作りましょう」
 すると、ジャックが言いました。
 「食いしん坊だな。食べてしまったらエコにならないんじゃないかな?」
 得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんも言いました。
 「そうだよ。その緑豆は畑に蒔いて育てるんだよ」

 ジャックと得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんと食いしん坊なジャックのお母さんは、ジャックの家の裏の畑に行って、おいしそうだけど食べてしまったらエコにならない緑豆を蒔きました。

 その夜、ジャックの家の裏の畑に蒔いた緑豆の周りで、得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんが踊りを踊っていると、ジャックの家の裏の畑に蒔いた緑豆から勢いよく芽が出てきました。そして、ぐんぐん伸びていきました。

 翌朝、ジャックがジャックの家の裏の畑に行ってみると、ゆうべ蒔いた緑豆は、雲に届く大きな木になっていました。さっそくジャックは、ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木をどんどん登っていきました。

 そして、とうとう雲の上まで登ったジャックは、雲の上に大きなお城が建っているのを見つけました。ジャックが見つけた雲の上の大きなお城にジャックが入ってみると、そこにはニワトリと、何かが入っている袋と、ハープがありました。ジャックは何かが入っている袋の中には何が入っているのだろうと思って、そっと何かが入っている袋を開けて覗き込みました。

 すると、いきなりハープがこう叫びました。
 「どろぼうだ! どろぼうだ! どろぼうがきだぞ!」
 びっくりしたジャックは、ジャックが見つけた雲の上のお城の中にあった何かが入っている袋の中に入っていたものを一つかみだけ手に取って、ジャックが見つけた雲の上のお城の中から逃げ出しました。すると、ジャックが見つけた雲の上のお城の中から雲を衝くような大男が追いかけてきました。

 ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木をするすると降りてきたジャックが、ジャックの家の斧を取り出して、ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木を切り倒そうとすると、ジャックが見つけた雲の上のお城の中からジャックを追いかけてきた雲を衝くような大男が、こう叫びました。
 「この木を切るな。この木を切ったらエコじゃなくなるんじゃないかな?」
 なるほど、それもそうだなと思ったジャックは、ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木をジャックの家にあった斧で切り倒すのをやめました。すると、ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木の途中から、ジャックが見つけた雲の上のお城の中からジャックを追いかけてきた雲を衝くような大男が飛び下りてきました。

 ジャックの家の裏の畑に生えた雲に届く大きな木の途中から飛び下りた雲を衝くような大男は、こう言いました。
 「お前が手に持っているのは緑豆だな。この地図の印を付けたところに蒔いてくれてもいいんじゃないかな?」
 ジャックは手の中の緑豆を見て、なるほど、それもそうだなと思いました。

 ジャックが見つけた雲の上のお城の中にあった何かが入っている袋の中に入っていた緑豆を、ジャックが見つけた雲の上のお城の中からジャックを追いかけてきた雲を衝くような大男にもらった地図の印を付けたところにジャックが蒔いていると、得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんがやってきて踊りを踊りはじめました。

 その後、ジャックが見つけた雲の上のお城の中からジャックを追いかけてきた雲を衝くような大男は、ジャックの家のある村とジャックの家のある村の隣の町のあちこちに生えた雲に届く大きな木を何度も何度も行き来して、せっせとコンビニを作りました。そして、ジャックは、ジャックの家の裏の畑のすぐ近くにできたコンビニでアルバイトをしながら経営学を勉強したということです。

 そうそう、それと、得体の知れない妙な生き物に変身したジャックのお父さんは、今もどこかで踊りを踊っていることでしょう。

| コメント(0) | トラックバック(0)

――夜になると、シャハラ亭リヤール師匠の前で、弟子のザード姫が新作を披露した。

(弟子)まいど馬鹿ばかしいお話を一席。えー、これは、先週旅先で聞いた話なんですけど…。
(師匠)おいおい、ちょっと待て。先週というと…、お前、大臣と一緒に旅行してたのか?
(弟子)そうですけど、それが何か?
(師匠)なんということを…。不倫旅行とは、ふしだらな。
(弟子)不倫ですって? 何言ってるんですか。大臣は私の父ですよ。
(師匠)おお、そうだったな。しかし、大臣も大臣だ。この大事な時期に…。おい、大臣を呼べ!
(大臣)お呼びですか?
(師匠)お前はクビだ!
(大臣)またか。これで何度目だよ。
(師匠)どいつもこいつも、切れない刀みたいなやつばかりだな。
(弟子)…という話は、こっちに置いておきまして…

 その土地の運河の片隅に、美しい娘の銅像がありました。そのいわれを地元の人に尋ねてみたところ、その像には、それはそれは悲しい物語が秘められていたのです。

 ある日、子供たちが、運河に漂う美しい水死人を発見して、村中が大騒ぎになりました。普通、水死体は水を吸ってぶよぶよの醜い姿になるものですが、その娘のなきがらは、この世のものとは思えぬほどに美しかったのです。しかも、深緑色のもやもやとした海藻を身にまとっているだけという裸体でしたから、このニュースはあっと言う間に村中に広まって、男も女も大人も子どもも岸辺に集まって来ました。
 男たちが引き上げて、女たちが海藻をきれいに取り除くと、なんと、水死体の下半身には鱗のようなものがびっしりとくっついていたのです。これを見た村人たちは、これは人魚に違いないと噂し合っておりましたが、さらに金具でごしごしこすると、こびりついていたものが取れて、普通の人間の脚が現われました。
 人魚ではないと知って最初はがっかりしていた村人たちでしたが、彼女の生前の姿をめいめいが想像しているうちに、しんみりとした気持ちになってきました。
 その後、この不幸な死にみまわれた娘が近隣の村の者ではないと分かると、自分らの手で立派に葬儀をしてやろうということで、村人たちの意見がまとまりました。

 数年後、一人の旅人がこの村にやってきました。立派な身なりをした若者で、行方知れずになった女性を捜し歩いていて、この村で見つかった水死人の噂を耳にしたという話でした。村人たちが驚いたことには、旅人が語ったその女性の年格好や容貌は、まさにあの娘とぴったり一致していました。彼女が引き上げられた場所に案内してほしいと乞われた村人たちは、旅人を運河に連れて行きました。旅人は、村人が作った小さな墓碑銘の前で、長い間、佇んでいました。

 翌年、その旅人が再び村を訪れました。馬車の荷台には、きれいな布で丁寧に包まれた大きな荷物が乗せてありました。集まった村人たちに、旅人は、これをここに置かせてほしいと頼みました。それが、この美しい娘の銅像だったのです。

(師匠)ははーん、オチが読めたぞ。その銅像は、人魚姫の像だな。
(弟子)あのー、それを先に言わないでほしいんですけど…。
(師匠)こんな見え見えのオチで納得できると思ってたのか。昔から“サゲは読んでも読まれるな”と言うじゃないか。
(弟子)それを言うなら、“酒は飲んでも飲まれるな”でしょ。
(師匠)つべこべ言わずに…。
(弟子)黙って聞いてください!
(師匠)ああ、そうだった。

 それから何十年か後の、ある秋の夜。その娘の銅像の下で、一羽のツバメが羽を休めていました。すると、上からポタリと滴が落ちてきました。雨かなと思って上を見ると、銅像の目から涙がこぼれているのでした。
 「どうしたの?」とツバメは問いかけましたが、銅像は何も答えません。よく見ると、銅像は裸です。かわいそうに、寒くて声も出せないんだなとツバメは思いました。そこで、ツバメは銅像に何か着せてあげることにしました。
 ここまで来るときに、葦がいっぱい生えていたのを思い出したツバメは、その川辺に飛んで行きました。葦を細かくちぎっては運び、運んでは銅像の脚にくっつけているうちに、ツバメは力尽きて銅像の下に倒れてしまいました。
 「ありがとう、ツバメさん」と、銅像が初めて声を出しました。「あなたのおかげで、やっと元の姿に戻れました」
 しかし、ツバメは何も答えません。よく見ると、ツバメは息もしていないようです。かわいそうに、疲れて死んでしまったのだなと銅像は思いました。そこで、銅像は、私の声と引き換えに、ツバメに命を与えてくださいと、神に祈りました。

 翌朝、村の子どもたちが、銅像に起きた奇跡を発見して、村中が大騒ぎになりました。娘の像が、人魚姫の像に変身していたのです。このニュースはあっと言う間に村中に広まって、男も女も大人も子どもも岸辺に集まって来ました。
 村人たちは口々にこんなことを言いました。
 「すると、やはり、あの言い伝えは本当だったんだな」
 「いや、よく見てみろ。あれは本物の鱗ではないぞ」
 「何か、もやもやとした海藻のようなものがくっついてるよ」
 「なるほど。人魚姫だけに、海のもずくだ」

(師匠)ばかもん。それを言うなら、“海のもくず”だろうが!
(弟子)ああ、私が苦労して考えたオチは、これで“水の泡”となりました。

 人魚姫の像は何か言いたそうにしていましたが、もう声が出せません。
 エジプトに向かって飛んでいるツバメが、一言。
 「それを言うなら、“海の泡”でしょ!」

――シャハラ亭ザード姫は、これ以上ぐだぐだになることを避けて、慎ましく口を噤んだ。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 黄色の鼠が茶色の鼠の住む家に遊びに来た。すると、いきなり灰色の猫が襲いかかってきた。攻撃も防御も手当たり次第で、ルールも何もあったものではない。それに、気絶させてもすぐに起き上がってまた追いかけてくる。こんなことを毎日繰り返しているだけで、新しい敵が現われることもなく、進化できるわけでもない。こんな出鱈目な家にはとても住めないと思った黄色の鼠は自分の住む町へ帰って行った。

 茶色の鼠が黄色の鼠の住む町に遊びに来た。すると、いきなりボールの中に閉じ込められてしまった。いくら出ようともがいてみても出られず、つまらなくなって眠っていると、急にボールの外に追い出された。恐ろしい化け物が入れ代わり立ち代わり現われて攻撃してくるが、人間の命令通りにしか動けない。こんな不自由な町にはとても住めないと思った茶色の鼠は自分の住む家へ帰って行った。

 黄色の鼠と茶色の鼠が黒色の鼠の住む国に遊びに来た。すると、いきなり大勢の人間たちが寄ってきて、握手をしたり写真を撮ったりしはじめた。子どもも大人もみんな大喜びをしていて、その後ろには笑顔を浮かべた人間たちが行列を作って待ち構えている。敵はどこにもいなかったが、こんな無気味な国にはとても住めないと思った黄色の鼠と茶色の鼠は自分の住む町と家へ帰って行った。

 黒色の鼠が黄色の鼠の住む町や茶色の鼠の住む家に遊びに来ることはない。自分の住む国が一番だと信じ込んでいるからだ。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 そろそろ引き上げようかと思っていると、奥の席にいた顔なじみが声をかけてきた。
 「イッパイ、つきあってくれないかい?」
 彼は返事を待たず、隣に移ってきた。
 「じゃあ、イッパイだけ」
 彼は内ポケットから取り出した物を、私のコースターの横に置いた。
 「うちのフルいショコのナカにあった」
 薄い合成樹脂製のケースは傷だらけで、罅割れもある。
 「ナンだとオモう?」
 光沢のある円盤が入っている。再生できる機械はないはずだ。
 「CD-ROMだな。どこかのセイケイのドラマでもハイってたのか?」
 「カンジだよ」
 「カンジだって?」
 「ひとつひとつのモジにイミがあるという、あのカンジだ」
 「しかし、それは…」
 「おまけにゴセンゾのニッキもハイってた。もちろんカンジをツカってカいてある」
 他の客はもういない。どうやら、彼の法螺話に最後まで付き合うしかなさそうだ。新しいグラスに少し口をつけると、彼は話し始めた。

 彼の御先祖の日記によると、漢字という文字が急に使われなくなったのは、インフルという疫病のせいだという。当時は、その疫病が数年おきに世界中で大流行して、大勢の死者が出ていたそうだ。
 ある年に流行した疫病は、毒性がなくて自覚症状もなく、死者は一人も出なかった。これは後になって分かったことだが、実は潜伏期が異常に長かったため感染したことに気付かなかっただけで、気付いたときには全人類が感染していた。
 最初に発症したのは日本人だった。そして、その症状は、漢字の読み書きが全く出来なくなるというものだった。このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡ったが、すぐにジャパニーズ・ジョークとして片付けられた。たまたまその日が4月1日だったからだ。

 「ちょっとマってくれ」と私が口をはさむと、彼は不愉快そうな表情を浮かべた。
 「ナンだよ」
 「キョウはフルいレキホウでいうと、ナンガツナンニチだったかな」
 「よくワからんけど、ゴガツのチュージュンぐらいだろう」
 「そうか。またカツがれてるワケじゃないんだよな?」と、私が念を押すと、彼は愉快そうな顔になった。
 「エイプリル・フールというのは、イチネンにイッカイしかないよ」

 ところが実際は、その一日だけで世界中の感染者のほぼ全員が発症していた。漢字が使えなくなる症状だから、いまだに漢字を使っている日本人だけが自覚できたわけだ。日本人はパニックに陥った。

 翌日には、このニュースが再び世界を駆け巡って、「日本人は文字が見えなくなったそうだ」、「本を開くとどのページも白紙に見えるらしい」などというデマが広まり、いつの間にか「白紙病」という病名が付けられて、これが定着してしまった。
 もちろん、本が白紙に見えるということはなく、漢字の形はしっかり見えている。見えるけれども文字としては認識できなくなっているだけだ。彼の御先祖の言葉を借りると「漢字の部分だけが、まるで未知の外国語の文字のように、意味不明の図形に見える」ということだ。

 最初はパニックになっていた日本人も、漢字以外の文字なら読み書きできることから、次第に落ち着きを取り戻して、しばらくは漢字を使わない表記法でやり過ごすことにした。
 それで、日常生活に大きな支障がないことに気付いた日本人は、症状がおさまった後も、わざわざ漢字なんていう厄介な文字を使わくなったということだ。

 話を聞きおわった私は、一つだけ腑に落ちない点があったので、彼に尋ねた。
 「しかし、キミのゴセンゾは、そのニッキをカくときに、どうやってカンジをツカうことができたのかい?」
 「ああ、それはオレもギモンにオモった。それで、ほかのブンショをあちこちサガしてみて…」
 彼は、ここでグラスを空にした。
 「トウジはカンチョクという、あまりヒトにシられていないニュウリョクホウシキがあったことがワカったんだ」
 「ナンだ、それは?」
 こうなったら、もう一杯、付き合うしかなさそうだ。


〔転載者註〕会話文以外は、失われた漢字交じりの表記に改めました。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 あるとき、ピノキオが森の中を歩いていると、甲高い音が近づいてきた。
 カラン、コロン。カラン、コロン。
 木の陰に身を隠したピノキオが息をひそめて見ていると、何やら恐ろしい風体をした怪物が歩いている。
 カラン、コロン。カラン、コロン。
 それは、怪物の履き物が立てている足音だった。怪物は赤い顔をしていて鼻が異様に高かった。
 カラン、コロン。カラン、コロン。
 その妙な形の履物は、ピノキオと同じように堅い木で出来ているようだ。その懐かしい音に誘われて、ピノキオはこっそり後をつけていった。

 しばらく歩いているうちに、怪物が何か木の葉のようなものを落としたのが見えた。ピノキオは怪物の姿がじゅうぶんに遠くなるまで待って、それを拾ってみた。ヤツデの葉のような形をしているが、葉の部分は鳥の羽根でできていて、木の枝で出来た柄に糸でしっかりと結わえてある。何かに使う道具のようだ。

 ピノキオが鳥の羽根をふわふわと動かしたり光に当てて透かしてみたりしていると、遠く離れた怪物が急に振り向き、ひとっ跳びでピノキオの目の前に現われた。ピノキオは道具をあわてて背中に隠したが、怪物に見られてしまったようだ。

 「おい、小僧、何かを隠しただろう?」と、恐ろしい形相をした怪物が恐ろしい声で問い詰める。
 「いいえ。僕は何も隠していません」と、震えながら答えると、ピノキオの鼻がびゅーんと伸びた。不意討ちにあった怪物は尻餅をつき、ピノキオもひっくり返った。それでもピノキオが「隠してません、隠してません」と言い続けると、鼻はどんどん伸びて行く。
 怪物が起き上がって、ピノキオが背中に隠していた道具を取り上げた。
 「この嘘つきめ」と、怪物が怒鳴りつける。
 「御免なさい、御免なさい。もう嘘はつきません」と、ピノキオは仰向けになったままで謝った。すると、ピノキオの体が宙に浮いて、ぐんぐん昇りはじめた。そして、ピノキオは雲の中へと姿を消した。

 ちょうどそのとき雲の上では、雲を衝くような大男が事業拡張のために橋をかけていた。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、あるところに、正直だけどケチなお爺さんがいました。お爺さんは、ポチという犬を飼っていましたが、ケチなので餌をあんまりやりませんでした。それで、おなかを空かせたポチは、隣の欲張りだけど親切なお爺さんの家に行って、こっそり餌をもらっていました。

 ある日、ポチは、正直だけどケチなお爺さんの畑で、「ここ掘れ、ワンワン」と鳴きました。それを聞いた正直だけどケチなお爺さんは、畑を掘ってみました。すると、大判小判がざっくざくと出てきました。

 それを見た欲張りだけど親切なお爺さんが、正直だけどケチなお爺さんに、ポチを貸してほしいと頼みに来ました。すると、正直だけどケチなお爺さんは、正直にこう言いました。
 「嫌だよー」
 それを聞いた欲張りだけど親切なお爺さんは、こう言い返しました。
 「ケチだなー」
 だけど、欲張りだけど親切なお爺さんは、それからも、ポチがおなかを空かせて来たときには餌をあげました。

 別のある日、ポチは、欲張りだけど親切なお爺さんの畑で、「ここ掘れ、ワンワン」と鳴きました。それを聞いた欲張りだけど親切なお爺さんは、畑を掘ってみました。すると、大判小判がざっくざくと出てきました。

 それを見た欲張りだけど親切なお爺さんは、もう欲張りはやめようと思って、畑から出てきた大判小判を正直だけどケチなお爺さんに全部あげました。すると、正直だけどケチなお爺さんは、もうケチはやめようと思って、ポチに餌をたくさんやることにしました。

 そういうわけで、ケチをやめた正直なお爺さんから餌をたくさんもらえるようになったポチは、おなかを空かせることがなくなったので、隣の欲張りをやめた親切なお爺さんの家には行かなくなりました。

 ポチが来なくなったのがさびしくて、親切なお爺さんが、正直なお爺さんに、ポチを貸してほしいと頼みに来ると…。
 「嫌だよー」
 「ケチだなー」
 「ケチじゃないもん。正直なだけだもーん」
 「そんなこと言ってると、友達がいなくなるぞー」
 「ふん、大きなお世話だよー」
 「大きなお世話じゃないもん。親切なだけだもーん」
 二人のお爺さんは、このように言い争って、ずっと仲良く暮らしていたそうです。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 ある日、白ヤギさんが黒ヤギさんにメールを送りました。
 黒ヤギさんはメールを読まずにケータイをむしゃむしゃ食べました。

 待っても待っても、黒ヤギさんから白ヤギさんにメールが届きません。
 白ヤギさんはメールを待てずにケータイをむしゃむしゃ食べました。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 ある土曜日の朝。クラリネットを持った少年が階段を降りてくる。少年は、キッチンで朝食の支度をしているママの背後へ行き、クラリネットを見せようとする。
 「これ、こわれちゃったよ。全然音が出ないんだ」
 「あとでパパに見てもらいなさい」
 「だめだよ。パパには内緒だよ」
 「早く片付けて、パパを起こしてきて」
 「うん…」
 生返事をした少年は、階段の下まで行ってクラリネットを吹いてみるが、やはり音は出ない。中に何か詰まってるんじゃないかと振ってみたり覗いてみたりしていると、奥の畳の部屋からお婆ちゃんの声がする。
 「こっちへ持ってきてごらん。直せるかどうか見てあげるから」
 少年は、お婆ちゃんの部屋へクラリネットを持って行く。
 ママが階段の下から、寝室にいるパパに声をかける。
 「パパ、いつまで寝てるの」
 「もう起きてるよ」
 「じゃあ、さっさと降りてきて」
 「わかった、わかった」
 お婆ちゃんの部屋では、背の低い机の上にクラリネットを乗せ、あちこちいじっているお婆ちゃんを、向かい側から少年がじっと見ている。お婆ちゃんは、器用に吹き口を取り外して大きな虫眼鏡で調べ始める。少年が横へ回って覗き込もうとすると、お婆ちゃんが少年に吹き口と虫眼鏡を渡す。
 「ほら、ここんところが割れて、取れかかってるよ」
 「ほんとだ。直せる?」
 「ちょっと待っててね」
 お婆ちゃんは、立ち上がって、押し入れの中から古めかしい小箱を取り出して、机の上に置く。お婆ちゃんが小箱から針と糸を取り出したのを見て、少年が驚く。
 「えーっ? それで直せるの?」
 「大丈夫。まかせておきなさい」
 リビングでは、母親が、テーブルの上に料理を盛りつけた皿と人数分のカップを並べ終わっている。階段の上へ向かって、もう一度大声で呼ぶ。
 「もうできましたよ」
 「今行くよ」
 畳の部屋では、お婆ちゃんが、吹き口から取り外した小さな物を針と糸で縫い合わせている。少年は、珍しそうにその様子を見ている。
 ママが畳の部屋の方へ来て、お婆ちゃんに声をかける。
 「朝ご飯、できましたよ」
 「はいはい。ちょっと待っててね」
 母親は、少年に向かって、少し恐い顔をしてみせる。
 「早く手を洗ってきなさい」
 「はーい」
 少年は、お婆ちゃんの方を気にしながら、しぶしぶ洗面所へ行って手を洗う。その間に、縫いおわったお婆ちゃんは、くるくるっと結び目をつくって糸を切っている。そこへ少年が急いで戻ってくる。
 「もう終わったの?」
 「さあ、これで元通り」
 お婆ちゃんが、縫い付けた小さな物をクラリネットの吹き口の中に挿し込むと、吹き口がパタパタと羽ばたき始める。お婆ちゃんは腰を抜かし、少年は目を丸くして見つめている。
 ママは、熱い飲み物を入れたポットをテーブルに運んだ後、お婆ちゃんの部屋へ行く。すると、クラリネットの吹き口が嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。唖然として少年とお婆ちゃんとママが見ていると、吹き口は開いていた窓から勢いよく外へ飛んで行く。
 パジャマ姿のパパが階段から降りてくる。
 「あれ? みんな、どうしたの?」
 窓の外から、雀たちの賑やかな鳴き声が聞こえている。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 「この期に及んで、まだしらを切るつもりか!」
 「僕は桜の木なんか切ってません」
 「この桜吹雪を、よもや忘れたとは…」

 「おお、ビューティフル! 僕が切り倒したかった桜の木は、そのタトゥーの中にあります」
 「切れるものなら、切ってみやがれ。ただし、一滴でも血を流してはならぬぞ」

 「あなたが切り倒したいのは、金さんのタトゥーの中の桜の木ですか?」
 「そうです。金さんのタトゥーの中の桜の木です」
 「あなたは正直者ですね。金さんのタトゥーの中の桜の木をあなたにプレゼントしましょう」

 「こうなってしまっては、もはや切るに切れまい。これにて一件落着」


*正直に言います。下書きしてるうちに眠ってしまいました。地の文を書いていると時間がかかるので、このままでアップします。登場人物が誰なのか、想像してお読みください。〔偽装前の投稿日時:2009/05/23 01:58〕

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、正直者なのに馬鹿を見ず、畑から出てきた大判小判で小金持ちになり、おまけに小太りになった爺さんがいた。小太りな爺さんは、ポチという犬を飼っていた。ポチも贅沢な餌を毎日たらふく食べていたせいで、小太りになっている。

 ある日、隣の貧乏だが親切な爺さんの家の庭にポチがやってきて、こう吠えた。
 「爺さん、ワンワン。爺さん、ワンワン」
 「おやおや、珍しい。ポチじゃないか」
 「大変、ワンワン。大変、ワンワン」
 「どうしたんじゃ?」
 「病気だ、ワンワン。病気だ、ワンワン」
 ポチの後を追って隣の家に行くと、小太りな爺さんが頭から布団をかぶって寝ている。
 「どうした、爺さん?」と布団をめくると、おでこに大きな瘤があった。
 「何じゃ、それは」
 「ガンだそうじゃ」
 「ガン?」
 「手術をしなければ、あとひと月の命じゃと」

 「大判小判を残らず全部? あの青ひげとかいうやつがそう言うたのか」
 「死んでしもうたら、元も子もないんでな」
 「気でも違うたか。あんな流れ者の言うことを本気にするとは」
 「あの薮よりは信用できるぞ」
 「そうじゃ、養生所に行って診てもろうたらええ」
 するとそこへ、赤ひげが入ってきた。
 「悪いが、話は聞かせてもらったよ」
 赤ひげは、有無を言わさぬ手早さで瘤を触診した。
 「これは、ガンではない。ただのできものだ」
 「もうだまされんぞ。婆さんのときもそう言うたではないか」
 「ならば、そのもぐりの医者にかかって死ぬがいい」
 そう言い置いて、赤ひげは、帰って行った。

 翌朝。瘤のできた爺さんは大判小判の入った甕を手押し車に乗せ、青ひげの屋敷に向かっていた。ポチは留守番だ。隣の親切な爺さんが追いかけて来た。
 「どうしても行くのか」
 「大きなお世話だ」
 「小さな親切と言え」
 「もうついて来るな」
 そんなことを言い合っているうちに、青ひげの屋敷に着いた。
 「こんな立派な屋敷が建つんじゃから、腕のいい医者に決まっとる」

 瘤のできた爺さんの様子を見に、赤ひげがやって来た。すると留守番のポチが尻尾を振って、こう吠えた。
 「爺さん、ワンワン。青ひげ、ワンワン」
 「そうか」
 赤ひげは、懐から吉備団子を出してポチに与えた。
 「それを食ったら、鬼退治に出かけるぞ」

 「ここから先は立ち入り禁止だ」
 そう言って、青ひげは地下にある手術室の扉を閉めた。一人で取り残された親切な爺さんが、心配そうな顔で廊下を行きつ戻りつしていると、赤ひげがやって来た。ポチと、どういうわけか猿と蜂がお供についている。
 「青ひげ、ワンワン。もぐりだ、ワンワン」
 ポチが吠えると、手術室の扉が開いて青ひげが顔を出した。「うるさいな。手術の邪魔を…」と言いかけたところを猿がひっかく。「うわっ、何をする!」と顔を覆って叫んでいると、注射器をもって飛んできた蜂が、青ひげの尻にプスリと一刺し。
 廊下に倒れた青ひげは、いびきをかきはじめた。赤ひげはずかずかと手術室に入って行く。
 「さあ、あとはわしがやろう」
 親切な爺さんが恐る恐る入ってみると、赤ひげは、麻酔で眠っている爺さんの瘤にメスを入れていた。
 「心配するな。すぐに終わる」

 こうして、瘤を取ってもらった爺さんは、ただの小太りな爺さんになり、贅沢な暮らしをやめたおかげで、そのうち元通りの正直な爺さんに戻った。
 「青ひげのやつ、顔じゅう傷だらけになって、ほうほうの体で逃げて行きおった」
 このように、親切な爺さんは村中に言い触らして歩いた。そして、必ず、こう締めくくるのだった。
 「しかし、大判小判を残らず持っていくとは、敵も去るものじゃな」

| コメント(0) | トラックバック(2)

 あるとき、雲の上で、ジャックが大判小判を眺めていると、ピノキオが言った。
 「どうしてあんな嘘を吐いたんですか?」
 「嘘も方便さ」
 「嘘もホウベン?」
 「人間には、嘘を吐くことが必要な場合もあるという、あの国のことわざだ」
 「僕には分からないな。嘘を吐くと人間にはなれないと言われたけど、これも嘘なの?」
 「あの女神は人間じゃないだろう」
 ジャックは笑って、こう付け足した。
 「もっとも、あの女神は正直者が大好きなようだが…」
 ピノキオの耳が赤くなった。
 「すぐ顔に出るやつだな」

 そのころ地上では、正直爺さんが荒れた畑を耕していた。すると、鍬が何か堅いものに当たった。
 「やれやれ。もう大判小判には懲り懲りじゃよ」
 正直爺さんが手を休めて腰を伸ばしていると、ポチがやってきた。しかし、畑に埋まっているものの匂いを嗅ぐと、つまらなそうな顔で戻って行った。
 「どうやら今度はただのガラクタのようじゃな」
 正直爺さんはゆっくりと鍬を入れ、埋まっている物を掘り出しにかかった。

 養生所に、先日、瘤を取ってやった爺さんがやって来た。例の甕を大事そうに抱えている。「どうした?」と赤ひげが問うと、爺さんは「裏の畑から、こんな物が出てきました」と答えて、甕を床に置いた。そして、甕の中から手紙を取り出して、赤ひげに渡した。

 爺さんがじっと見ていると、赤ひげはこう言った。
 「わしが読まずに食べるとでも思っているのか」
 そして、手紙を読み始めた。

もう分かっていると思うが、ガンというのは嘘だ。だまして悪かった。しかし、あのまま贅沢三昧の暮らしを続けていたら、あんたは近いうちに死ぬところだった。大判小判はその治療費としていただくつもりだったが、私は何もできずに伸びていた。そのまま返すだけでは芸がないので、これを置いて行く。赤ひげによろしく。

 甕の中には、紙に包んだものがたくさん入っていた。包みを一つ取り出して開けてみると、植物の種といっしょに、栽培法や処方などを細かく書き込んだ紙片が入っていた。なかなか手に入らない珍しい薬草だ。どの包みの紙片にも、ここの栽園には植えていない薬草の名が記されていた。

 爺さんがじっと見ていると、赤ひげはこう言った。
 「わしが涙を流すとでも思っているのか」
 そして、苦い笑みを浮かべて呟いた。
 「あの青二才め」

| コメント(0) | トラックバック(0)

 ジャックはコンビニでアルバイトをしたが、三ヶ月で経営学に興味がないことが分かった。アルバイトを辞めたいと言うと、雲を衝くような大男は店長にならないかと引き止めたが、それも断った。もっと面白いことをやりたかったのだ。

 ある日、ジャックがぶらぶら歩いていると、森の中から空に向かって何かがぐんぐん伸びて行くのが見えた。
 「あんなところに緑豆を蒔いたのかな?」
 森の中に入ってみると、荷物を背負った大男が、緑豆の根本に向かって怒鳴っている。よく見ると、その根本には少年が寝転がっている。
 「これは面白い」

 ジャックは静かに近づいて、木の陰から様子を伺った。空に向かって伸びているのは緑豆ではなく、その少年の鼻だ。少年は、何かを繰り返し叫んでいる。
 大男は、少年が背中の下から何かを奪い取った。「この嘘吐きめ」と怒鳴りつけて、大男は驚くほどの大股で去って行った。すると、少年の体が宙に浮き、上昇し始めた。ジャックが駆けつけたときには、少年の姿は豆粒のように小さくなっていた。そして、やがて雲の中に吸い込まれて行った。

 ジャックがその雲から目を下ろすと、目が眩んでふらふらした。近くの木に捕まろうとしたとき、何か柔らかいものを踏む感触があった。よく見えないが、そのあたりを足で探ると、確かに地面に何かがある。
 「何だ、これは?」

 ふと足を止めた天狗が、取り返した団扇を箱笈に仕舞った。
 「これで、よし」
 荷物を背負い直して、ふたたび歩き始めた天狗は、まだ何か気になることがあるらしく、頻りに首をひねっている。

 手さぐりで、それを拾い上げたジャックは、目をしばたいた。感触と重みはあるが、それは見えない。しかも、自分の手の一部も見えなくなっている。もう目の錯覚ではない。ジャックは、それを拡げたりひっくり返したりして大きさと形を確かめた。どうやら藁で編んだ大きなマントのようだ。

 天狗は、箱笈にかぶせてあった隠れ蓑がなくなっているのだと気付いた。
 「あの小僧、どさくさ紛れに盗りやがったな!」
 飛ぶような大股で、さっきの場所に引き返した。

 ジャックは、さっきの大男の足音が近づいてくるのに気付いて、このマントを頭からかぶろうかと思った。そうすれば全身が見えなくなるはずだ。しかし、大男に見つかったときのリスクが大きい。そこで、ジャックは近くの木の枝にマントを投げつけて、その場をはなれた。

 ジャックが空を見上げていると、大男が跳んで来た。
 「おい、小僧!」
 ジャックはそれを無視して、さっきの少年が消えていった雲を指差して、こう叫んだ。
 「あんなところに子どもが浮かんでるぞ!」
 人違いに気付いた大男は、一緒になって空を見上げる。
 「どこだ?」
 「あれだよ、あの雲の端っこ!」
 「何も見えんぞ…」
 大男がじっと目を凝らしているのを見て、ジャックは両手で筒の形を作って望遠鏡を覗くふりをした。
 「見える、見える。よく見えるぞ!」
 大男がこっちを見ている気配を察して、ジャックは、こう続けた。
 「かわいそうに、あの子は両手の先がないぞ」
 すると、大男はみごとに食いついた。
 「おい、それをよこせ」
 「いやだよ」
 「いいから、よこせ」
 大男は力まかせに望遠鏡を奪い取ろうとした。
 「あーあ、あんたのせいで見えなくなったよ」
 ジャックは架空の望遠鏡を素早く縮めてポケットに入れた。
 「おい、あの小僧は、どこへ行った?」
 「さあ…。あの雲の上じゃないかな」
 すると、大男は腰を落として力を溜めた後、一気に雲の上まで跳んだ。

 こうして、ジャックは天狗の隠れ蓑を手に入れた。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、むかし、ある国に、桃姫という姫君がおりました。殿様と奥方様は、まるで桃太郎が生まれたようだと喜んで、桃姫と名づけたそうです。

 桃姫が生まれたとき、三人の予言者がお城にやってきて、不吉な予言をしました。
 一人目は「十五になったとき、姫君は大猿に連れ去られるだろう」と言い、二人目は「十五になったとき、姫君は泡に包まれて海に沈むだろう」と言い、三人目は「十五になったとき、姫君は百年の眠りにつくだろう」と言いました。これを聞いた殿様は、この三人の予言者を牢屋に入れてしまいました。

 桃姫が十五になる前の晩、殿様の夢の中に一匹の亀が出てきて、こんなことを言いました。
 「昔、助けていただいた亀でございます。どうか今こそ御恩返しをさせてください。今日、あの海で最初に釣れたものを、桃姫様の身につけてください。そうすれば、必ずお守りします」

 目を覚ました殿様は、これは吉兆に違いないと思い、海へ行って釣りをしました。すると、大きな笊が釣れました。殿様は、この笊にとじ込められていた亀を海へ逃がしてやったことを思い出しました。

 お城に戻った殿様は、さっそく桃姫の背中にその笊をくくりつけました。すると、桃姫は後ろ向きに、ゆっくりと歩き始めました。驚いて止めようとしましたが、殿様は、なぜか桃姫には追い付けません。奥方様も家臣たちも、お城の中にいる人は誰もみな、なぜか桃姫には追い付けません。お城を出た桃姫は、海へと向かってゆっくりと後ろ歩きを続けました。町の人も海辺の人も、この国にいる人は誰もみな、なぜか桃姫には追い付けません。桃姫は、ゆっくりと後ろ向きに海に入っていきました。そして、泡に包まれて海の底へと沈んで行きました。

 殿様も奥方様も、城中の人たちも町や海辺の人たちも、桃姫が消えて行った海をみつめて嘆き悲しんでおりました。すると、海の中から桃姫が亀に乗って帰ってきました。桃姫は、竜宮城で百年の間ぐっすり眠っていたと言いました。そして、牢屋にいる三人の予言者に渡すようにと、乙姫様から玉手箱を預かってきたと言いました。

 そして、予言者たちが玉手箱をあけると、中から白い煙が出てきて、三人とも若返って十五年前の姿に戻ったということです。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、むかし、ある国に、伏姫という姫君がおりました。蝶よ花よと育てられた伏姫はすくすくと成長し、あっと言う間に婚活を考える年齢になりました。

 ある日、伏姫は、八房という犬を連れて来ました。部屋に通された八房は、殿様の前にかしこまって座っています。
 「して、今日は何の用じゃ?」と殿様が水を向けると、八房はひときわ緊張した面持ちで、こう答えました。
 「お父さん。お嬢さんと結婚させてください」
 これを聞いた殿様は、激怒しました。
 「お前にお父さんなどと呼ばれる覚えはないっ!」
 そう怒鳴った殿様は、尻尾の毛を逆立てて部屋から出ていってしまいました。

 数分後、殿様が戻ってきました。
 「いや、先程は失礼した」と、殿様が言いました。「この頃、どこへ行っても『お父さんだ』『お父さんだ』と言われるもので、ついカッとしてしまった。許してくれ」
 八房は真面目な顔をして聞いていましたが、伏姫は笑いをこらえているようです。
 「では、一つ条件を出そう。敵の大将の首を取って参れ。さすれば、そちを伏姫の婿として認めてやろう。どうじゃ、これでよいか?」
 「ははっ。しかと承りました。必ずや敵の大将の首を取って参ります」
 八房は、さっそく敵陣を目指して突っ走って行きました。

 数分後、八房が戻って来ました。口には包みをくわえています。
 「取って参りました」
 「早いな」
 殿様は包みの中身を確認しました。
 「うむ。敵の大将に相違ない」
 「それでは、お約束通り…」
 「分かっておる」
 殿様は莞爾として、こう言いました。
 「ここで約束を違えたりすると、この後が大変だからな」

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、ある国に、卵が好きな殿様がおりました。
 わがままな殿様でしたが、その国の人びとには、とても人気がありました。

 さて、月日は流れ、次の殿様に代替わりしました。
 わがままなところは先代と同じでしたが、家臣の諌言にも民衆の声にも耳を貸さないという、とても困った殿様でした。
 「殿様には何を言っても聞き入れてくださらない」
 「殿様には何を言っても無駄だな」
 「殿様に何を言っても馬の耳に念仏だそうだ」
 「殿様の耳は馬の耳らしいぞ」
 人々はこのように噂しましたが、殿様は馬耳東風だったそうです。

 さて、月日は流れ、また次の殿様に代替わりしました。
 わがままで聞く耳を持たないのは先代と同じでしたが、猜疑心が異常に強いという、とても困った殿様でした。
 「殿様には何を言っても聞き入れてくださらない」
 「殿様には何を言っても無駄だな」
 「殿様に何を言っても馬の耳に念仏だそうだ」
 「殿様の耳は馬の耳らしいぞ」
 猜疑心が異常に強い殿様は、国じゅうの井戸の底に盗聴器を仕掛けていたので、人びとの噂話はすべて筒抜けになっていました。

 さて、月日は流れ、またまた次の殿様に代替わりしました。
 わがままで聞く耳を持たず猜疑心が異常に強いのは先代と同じでしたが、自分の悪口を聞くと常軌を逸した怒り方をするという、とても困った殿様でした。
 そこで人びとは、秘密の場所に底なしの深い穴を掘りました。その底なしの深い穴の底に向かって大声で叫んで、鬱憤を晴らしたということです。
 「殿様の耳は地獄耳」

 さて、月日は流れ、殿様がいない時代になり、底なしの深い穴のことを知る人もいなくなってしまいました。

| コメント(0) | トラックバック(0)

 昔、昔、超昔、ある大陸に超巨大な国が繁栄していた。超巨大な国の科学技術は、時空や重力を支配できるほどにまで発達し、人々は超文明のもたらす超安楽な生活をおくっていた。そして、次第に何も考えなくなっていった。

 無知な民衆のおかげで、超巨大な国の大王は超巨大な権力をほしいままにして、超やりたい放題。そして、ついに不老不死の超技術を手に入れた。

 ところがあるとき、天変地異が起きて、その大陸は一夜にして海の底へと沈んで行った。こんなこともあろうかと、地下に超豪華なシェルターを作っておいた大王とその一族だけは難を逃れ、海底に沈んだ大陸の地下で暮らしていた。

 そして、時は流れ、昔、昔、普通の昔になったころ、地下宮殿の大王の部屋の天井からこんな声が聞こえて来た。

 「殿様の耳は地獄耳」

| コメント(0) | トラックバック(0)

 長い冬の間に、アリたちが溜め込んだ食糧がとうとう底をついてしまった。巣の外へ出てみると、キリギリスの死体がみつかった。キリギリスのおかげで、アリたちは飢え死にせずにすんだ。

 ホトトギスが鳴いていると、アリがこう言った。
 「働きもせず鳴いているだけなんて、いい身分だね」
 すると、ホトトギスはこう答えた。
 「いい身分だなんて、とんでもない。鳴かないと信長に殺されてしまうのです」

 ナイチンゲールが鳴いていると、ホトトギスがこう言った。
 「あなたも信長に殺されないように鳴いているのですか?」
 するとナイチンゲールはこう答えた。
 「殺されるなんて、とんでもない。私は王様が死なないように鳴いているんです」

 グンタイアリが通過すると、その後には王様の骨が残った。
 ナイチンゲールはどこかへ逃げたようだ。

 ナイチンゲールが鳴いていると、負傷兵がこう言った。
 「鳴いてばかりいないで、早く治療してくれ」
 するとナイチンゲールは負傷兵の傷口にくちばしを突っ込んで、弾丸を取り出した。

 負傷兵が泣いていると、上官がこう言った。
 「これくらいの傷で泣くんじゃない」
 すると負傷兵は上官の立てた作戦に首を突っ込んで、ダメ出しをした。

 グンタイアリが通過すると、その後には負傷兵と上官の骨が残った。
 ナイチンゲールはどこかへ逃げたようだ。

 ホトトギスが鳴いていると、ウグイスがこう言った。
 「鳴いてばかりいないで、卵を温めろよ」

 ウグイスが平安京で鳴いていると、エイリアンがやって来た。

 ウグイス嬢が泣いていた。たぶん事情があったのだろうが、マイクは切っておいた方がいいと思う。

 ホトトギスを鳴かせてやろうと、山猿があれこれと挑んでいた。

 アリがナシにたかっていた。これってアリ、それともナシ?

 アリクイとアリジゴクが睨み合っていた。双方、何もできず、勝負にならない。

 アリがこう言った。
 「さあ、立ち上がってかかって来い」

 ミツバチが毎週泣いていた。脚が二本足りないのが、たぶん悲しかったのだろう。

 ハチミツをクローバーにかけて食べる。これってアリ、それともナシ?

 カレーをナシにつけて食べる。これってアリ、それともナン?

 アリクイがバクにこう尋ねた。
 「夢なんか食って、うまいのか?」
 するとバクがこう答えた。
 「頼むから、蟻を食ってる夢を見るのはもうやめてくれ」

 その夜、アリクイは夢の中でバグを食っていた。
 結局、虫じゃないかとバクは思った。

 シロアリは、クロアリから届いた手紙をうっかり食べてしまった。
 クロアリは、「何か用?」と訪ねて来たシロアリをうっかり食べてしまった。
 すると、グンタイアリが通過して、後には何も残らなかった。

 オウムが富士山麓で鳴いていると、機動隊がやって来た。

 ナイチンゲールが泣いている横で、負傷兵がこう言った。
 「ごめん」
 たぶん情事があったのだろうが、マイクは切っておいた方がいいと思う。

 どうやっても鳴かないホトトギスに、山猿が困り果てていた。そういう無理強いは、もうよした方がいいと思う。

 ナイチンゲールがぐったりしている横で、アリクイが泣いていた。
 「嘘つき」
 たぶん何か行き違いがあったのだろうが、これ以上詳しいことは、もう語らない方がいいと思う。

 作者が弱音を吐いた。
 「この形式でひねったストーリを書くのは、もうこのへんが限界っす」

 キリギリスが鳴いていると、マツムシとスズムシとクツワムシとウマオイがやって来て、セッションが始まった。演奏が終わると夜が明けていた。
 「また来年もやろうな」
 そう言い合って、彼らは去って行った。


※スケジュールの都合により、「地底の大王と底なしの穴」の続編「地底一族の陰謀」は、明日の18:30に公開します。

| コメント(4) | トラックバック(0)

前回のあらすじ)
 超昔、ある大陸で繁栄していた超文明社会は一夜にして海の底に没した。しかし不老不死の大王とその一族はシェルターの中で生き延びた。時が流れて普通の昔になったころ、地下宮殿の天井から、地上の声が聞こえてきた。

(主な登場人物)

ナー大王  地下宮殿の主
フー后 ナー大王の妻
サー妃 ナー大王の長女
マー王 サー妃の夫
カー王 ナー大王の長男
ワー姫 ナー大王の二女
ター王子 マー王の長男
ノー王 ナー大王の甥

 地下宮殿の中では、超発達した科学技術によって、地上から伝わって来た声の意味を既に解析していた。

 「どれもこれも支配者に対する悪口ばかりです」
 カー王の報告に、ナー大王が満足げに頷いた。
 「うむ。地上では圧政が続いておるようじゃな」
 「すぐに、やっつけに行きましょう」と、カー王が飛び出そうとするのをナー大王が一喝した。
 「馬鹿もんッ!」
 ナー大王がカー王に説教していると、サー妃がやって来た。
 「あんた、今度は何をやったの?」
 「姉さんには関係ないよ」
 「いきなり地上に出ようとしおったんじゃ」
 「まあ、何てことを」
 そこへ、フー后が助け船を出した。
 「もういいじゃありませんか。カー王も反省しているようですし」

 カー王が自室にさがって落ち込んでいると、妹のワー姫がなぐさめた。
 「きっと、お父さんはお兄ちゃんのことが心配だから怒ったのよ」

 ナー大王の招集で会議が始まった。
 「危なっかしくてカー王には任せられん。地上にはやはりマー王に行ってもらおう」
 「いやー、僕にはそんな大役は…」
 マー王が遠慮していると、マー王の幼い息子が言った。
 「パパは悪いやつをやっつけないですか?」
 マー王が言いよどんでいると、ナー大王はター王子に尋ねた。
 「ターちゃんは、地上の悪いやつをやっつけるのかい?」
 「ボクが行ってやっつけます」
 「そうか、そうか」
 ナー大王は目を細めた。

 しばらくすると、ナー大王の甥にあたるノー王がやってきた。
 「地上の声が伝わって来たんですって?」
 「もう知っておるのか」
 「さすがはノー王、耳が早いわね」
 「こういうのを地獄耳っていうんだよ」
 「地獄耳ですか。悪いやつは僕がやっつけます」
 「ちょっと、どうしたんだよ、ターちゃん」
 「カー王が余計なことを教えるからよ」

 「そう言えば、こんなこともありましたっけ…」
 フー后が言うと、みんながそのテーマに沿ったエピソードを披露しはじめた。何しろ不老不死で長年暮らしてきた一族だから話の種が尽きることはない。

 こうして、地上人の危機は回避されたのであった。

| コメント(0) | トラックバック(0)

カレンダー

<   2009年5月   >
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

Twitter

Powered by Movable Type 4.261

このページについて

このページには、2009年5月に書かれたブログ記事が含まれています。

前のアーカイブは2009年4月です。

次のアーカイブは2009年6月です。

最近の記事はメインページで、過去の記事はアーカイブで閲覧できます。

最近のコメント