サギの恩返し

 むかし、むかし、あるところに、桃太郎のおばあさんが、ひとりぼっちですんでいました。

 桃太郎は「また鬼退治に行く」と言って電鉄に乗って旅立ったきり一度も帰って来ないし、おじいさんも、隣りのきびだんご屋の強欲じいさんと商標権を巡って争っているうちにポックリと旅立ってしまいました。

 ある日、おばあさんは、いつものように川で選択をしていました。
「今日のごはんは和食がええかいの、それとも中華がええかいの」
 一人暮らしをしていると、頭の中で思っていることをつい声に出して呟くようになるものです。

 すると、川上から、いろんな人たちの呟きが流れてきました。
「おやまあ、たまげたなあ。こんなものまで流れておるわ。このごろはやりのデジ樽とかいうものに穴でもあいて、またどこぞから流れ出したのかのう」
 おばあさんは、流れてきた呟きの中からおいしそうなものをすくいました。
「晩飯は、これで雑煮にしようかの」

 その夜、おばあさんが呟きのお雑煮を食べていると、どこからともなく桃太郎の声が聞こえてきました。
「オレだよ、オレ。桃太郎だよ」
 ちょうどそのとき、おばあさんは柔らかいお餅を口の中に入れたところでした。こんなときにあわててはいけません。もぐもぐとよく噛んでから、ゆっくりとお餅を飲み込みました。そして、どっこらしょと立ち上がり、玄関ドアの覗き穴から外の様子を伺いました。
 家の外には誰もいないようです。

「桃太郎や、どこにおるのかい。かくれておらんで出ておいで」
 おばあさんは、部屋の中を見回しながら、そう言いました。桃太郎が小さかった頃、よくそうやってかくれんぼをしていたものです。
「ばあちゃん、オレは今、遠くのくにで、鬼退治の支度をしているんだよ」
 おばあさんは驚きました。桃太郎の声は、おばあさんの頭の中から聞こえていたのです。
「わしゃとうとう気が変になってしもうたか」
 ショックを受けたおばあさんは、寝込んでしまいました。

 その夜更け。おばあさんは、ドアを叩く音で目を覚ましました。
「こんな遅うに誰じゃろね」
 覗き穴から覗いてみると、美しい娘が立っていました。おばあさんはすぐにドアを開けてやりました。
「おやまあ、そんな恰好で、どうしたんじゃね」
「山越えの途中で日が暮れて、道に迷うてしまいました。どうか一晩だけでも…」
「それはそれは冷えたじゃろう。早うお入り」
 おばあさんは、娘を招き入れました。

「残りもんだけど、おあがり。あったまるぞ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、悪いけど先に休ませてもらうよ」
 呟き入りのお雑煮を平らげた娘は、おばあさんが敷いてくれた布団を畳むと、その上に自分の荷物を広げて、何やら始めました。

 翌朝、おばあさんが目を覚ましたときには、娘の姿はありませんでした。食器はきれいに片付けられています。
「あの娘さんは、夢じゃったのかのう」
 おばあさんがそんなことを呟きながら布団を片付けていると、また頭の中から声が聞こえました。
「おばあさん、おばあさん。聞こえますか」
「おやまあ、その声は」
 おばあさんはかかえていた布団を放り出してしまいました。
「ゆうべは本当にありがとうございました」
「わたしゃまだ夢を見ておるのかのう」
「急に、おばあさんの声が聞こえてきたので、わたしもびっくりしました」
「そうなのかい。不思議なこともあるもんじゃねえ」
 おばあさんもだんだん慣れてきたようです。
「どうか驚かないでください」
「とっくに腰は抜けとるわ。何でも言うておくれ」
「わたしは以前、おじいさんに命を助けられたサギなのです」
「そういえば、じいさんがそんな話をしておったような」
「ゆうべは、そのときの御恩返しに伺ったのです」

 一方そのころ、桃太郎はというと、犬・猿・雉と一緒に適当な番号に電話をかけまくって、鬼退治のための資金集めをしておりました。
 そして、おばあさんの頭の中から桃太郎の声が聞こえることは、二度となかったということです。

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 いつ詐欺が出てくるのかとわくわくしたのでがっかりしました(嘘)。

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このページは、かみ かずしげが2011年1月 3日 01:18に書いたブログ記事です。

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