カテゴリ「額縁話」の記事 (13)

 昔、昔、ある森に、七人の小人が住んでいました。

 ある日、小人たちが仕事から帰ってくると、家の前に裸の娘が倒れていました。
 「誰だろう?」「きれいな人だな」「真っ白だね」「死んでるのかな?」「眠ってるんだよ」「寝たふりしてるのかも」「よーし、くすぐっちゃえ」
 小人たちは一斉に、裸の娘の体のあちこちを、こちょこちょとくすぐりました。
 「起きないなあ」「何も感じないのかな」「雪のように冷たいね」「やっぱり、死んでるんじゃないかな」「ぐっすり眠ってるんだよ」「悪い人に睡眠薬を飲まされたのかも」「よーし、もう一回やっちゃえ」
 小人たちは一斉に、裸の娘の体のあちこちを、

 ――ここで、シャハリヤール王が、いきなり話を遮った。「ああ、つまらん。どうせまた白馬に乗った馬鹿な王子が現われて、めでたしめでたしというやつだろう。こんな見え見えの話はもう沢山だ。もっと驚嘆の限り驚嘆するような話を聞かせてくれ!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と三匹の子豚

 ――シャハラザードが口を開く前に、シャハリヤール王が再び遮った。「もっと真面目にやれ!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と七人の恋人

 ――シャハラザードが口を開く前に、シャハリヤール王がまたまた遮った。「首を刎ねられたいのか!」
 すると、シャハラザードは、次のように語り始めた。

白雪姫と四十人の盗賊

 おお、幸多き王様よ、わたくしの聞き及びましたところでは、

 ――ここまで話した時、シャハラザードは暁の光が射すのを見て、慎ましく口を噤んだ。

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――夜になると、シャハラ亭リヤール師匠の前で、弟子のザード姫が新作を披露した。

(弟子)まいど馬鹿ばかしいお話を一席。えー、これは、先週旅先で聞いた話なんですけど…。
(師匠)おいおい、ちょっと待て。先週というと…、お前、大臣と一緒に旅行してたのか?
(弟子)そうですけど、それが何か?
(師匠)なんということを…。不倫旅行とは、ふしだらな。
(弟子)不倫ですって? 何言ってるんですか。大臣は私の父ですよ。
(師匠)おお、そうだったな。しかし、大臣も大臣だ。この大事な時期に…。おい、大臣を呼べ!
(大臣)お呼びですか?
(師匠)お前はクビだ!
(大臣)またか。これで何度目だよ。
(師匠)どいつもこいつも、切れない刀みたいなやつばかりだな。
(弟子)…という話は、こっちに置いておきまして…

 その土地の運河の片隅に、美しい娘の銅像がありました。そのいわれを地元の人に尋ねてみたところ、その像には、それはそれは悲しい物語が秘められていたのです。

 ある日、子供たちが、運河に漂う美しい水死人を発見して、村中が大騒ぎになりました。普通、水死体は水を吸ってぶよぶよの醜い姿になるものですが、その娘のなきがらは、この世のものとは思えぬほどに美しかったのです。しかも、深緑色のもやもやとした海藻を身にまとっているだけという裸体でしたから、このニュースはあっと言う間に村中に広まって、男も女も大人も子どもも岸辺に集まって来ました。
 男たちが引き上げて、女たちが海藻をきれいに取り除くと、なんと、水死体の下半身には鱗のようなものがびっしりとくっついていたのです。これを見た村人たちは、これは人魚に違いないと噂し合っておりましたが、さらに金具でごしごしこすると、こびりついていたものが取れて、普通の人間の脚が現われました。
 人魚ではないと知って最初はがっかりしていた村人たちでしたが、彼女の生前の姿をめいめいが想像しているうちに、しんみりとした気持ちになってきました。
 その後、この不幸な死にみまわれた娘が近隣の村の者ではないと分かると、自分らの手で立派に葬儀をしてやろうということで、村人たちの意見がまとまりました。

 数年後、一人の旅人がこの村にやってきました。立派な身なりをした若者で、行方知れずになった女性を捜し歩いていて、この村で見つかった水死人の噂を耳にしたという話でした。村人たちが驚いたことには、旅人が語ったその女性の年格好や容貌は、まさにあの娘とぴったり一致していました。彼女が引き上げられた場所に案内してほしいと乞われた村人たちは、旅人を運河に連れて行きました。旅人は、村人が作った小さな墓碑銘の前で、長い間、佇んでいました。

 翌年、その旅人が再び村を訪れました。馬車の荷台には、きれいな布で丁寧に包まれた大きな荷物が乗せてありました。集まった村人たちに、旅人は、これをここに置かせてほしいと頼みました。それが、この美しい娘の銅像だったのです。

(師匠)ははーん、オチが読めたぞ。その銅像は、人魚姫の像だな。
(弟子)あのー、それを先に言わないでほしいんですけど…。
(師匠)こんな見え見えのオチで納得できると思ってたのか。昔から“サゲは読んでも読まれるな”と言うじゃないか。
(弟子)それを言うなら、“酒は飲んでも飲まれるな”でしょ。
(師匠)つべこべ言わずに…。
(弟子)黙って聞いてください!
(師匠)ああ、そうだった。

 それから何十年か後の、ある秋の夜。その娘の銅像の下で、一羽のツバメが羽を休めていました。すると、上からポタリと滴が落ちてきました。雨かなと思って上を見ると、銅像の目から涙がこぼれているのでした。
 「どうしたの?」とツバメは問いかけましたが、銅像は何も答えません。よく見ると、銅像は裸です。かわいそうに、寒くて声も出せないんだなとツバメは思いました。そこで、ツバメは銅像に何か着せてあげることにしました。
 ここまで来るときに、葦がいっぱい生えていたのを思い出したツバメは、その川辺に飛んで行きました。葦を細かくちぎっては運び、運んでは銅像の脚にくっつけているうちに、ツバメは力尽きて銅像の下に倒れてしまいました。
 「ありがとう、ツバメさん」と、銅像が初めて声を出しました。「あなたのおかげで、やっと元の姿に戻れました」
 しかし、ツバメは何も答えません。よく見ると、ツバメは息もしていないようです。かわいそうに、疲れて死んでしまったのだなと銅像は思いました。そこで、銅像は、私の声と引き換えに、ツバメに命を与えてくださいと、神に祈りました。

 翌朝、村の子どもたちが、銅像に起きた奇跡を発見して、村中が大騒ぎになりました。娘の像が、人魚姫の像に変身していたのです。このニュースはあっと言う間に村中に広まって、男も女も大人も子どもも岸辺に集まって来ました。
 村人たちは口々にこんなことを言いました。
 「すると、やはり、あの言い伝えは本当だったんだな」
 「いや、よく見てみろ。あれは本物の鱗ではないぞ」
 「何か、もやもやとした海藻のようなものがくっついてるよ」
 「なるほど。人魚姫だけに、海のもずくだ」

(師匠)ばかもん。それを言うなら、“海のもくず”だろうが!
(弟子)ああ、私が苦労して考えたオチは、これで“水の泡”となりました。

 人魚姫の像は何か言いたそうにしていましたが、もう声が出せません。
 エジプトに向かって飛んでいるツバメが、一言。
 「それを言うなら、“海の泡”でしょ!」

――シャハラ亭ザード姫は、これ以上ぐだぐだになることを避けて、慎ましく口を噤んだ。

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 鹿の角を生やした馬が「こりゃあ、たまりません」と、禁太郎飴をガリガリと齧り、禁太郎が「でしょでしょ。今回は角砂糖ベースで、ほっぺたのところにはニンジンが入っているんだよ」と説明して、ケシカラン鹿を退治する旅に、鹿の角を生やした馬が加わった。

 馬の話では、その後、突然いなくなってしまった飼い主一家の行方を捜しているのだという。退屈していた一行が、その話で大ウケしたのに気をよくした馬が、調子に乗って馬鹿話をしながら、西へ西へと歩き続ける。熊の背には禁太郎、馬の背には猿がまたがっている。

――鹿の角を生やした馬は、こう語った。

 昔、ある国に、わがままな殿様がいたそうです。この殿様は、他人の言うことに耳を貸さず、何でもかんでも自分の思い通りに決めていました。

 ある日のことです。いつの間にか、殿様が行方知れずになりました。町や村の人々の暮らしぶりには無関心な殿様でしたから、お忍びで城の外に出るようなことは間違ってもするはずがありません。家臣たちは、いちおう城内を捜してみましたが、どこにも殿様は見つかりませんでした。

 実は、城中の庭の片隅に誰が掘ったものやら分からない古井戸があって、殿様はその中に落ちていたのです。

 三日後になって、やっと井戸から助け出された殿様は、耳だけでなく、全身が馬の姿になっていたということです。その古井戸の中で三日三晩を過ごした殿様は、地の底でつながっている井戸の奥から、町や村の人々の声が伝わってくるのを聞いて、これまで自分が人々の暮らしのことを何も知らなかったことを思い知らされたといいます。殿様は、これは罰があたったのだと反省し、それから後は、町や村の人々の話をよく聞くようになったという話です。

――ここで、馬の背に乗っている猿が尋ねた。

 「殿様は、その後もずっと馬の姿のままだったの?」
 すると、馬はこう答えた。
 「そうですよ」
 猿は、首を傾げている。何か納得できないことがあるようだ。
 「町や村の人たちは、どうしてその馬が殿様だと分かったのかな?」
 それは、もっともな疑問だ。さあ、どうする、馬?

――馬は、こう話を続けた。

 実は、殿様が行方知れずになったとき、城内の人たちは、ほとんど誰も心配なんかしていなかったのです。ただ一人だけ、殿様のことを本当に心配している男がいました。それは、殿様の馬の世話をしていた馬丁です。この馬丁の父親も先代の殿様の馬の世話係をしていました。今の殿様が子どもだった頃、この馬丁も子どもでしたので、よく一緒に遊んでいたのです。「竹馬の友」というやつですね。

 あるとき、若様が「かくれんぼをするぞ。そちが鬼じゃ」と言って、どこかへ行ってしまいました。子どものときからわがままだったんですね。ところが、さんざん捜し回っても若様が見つかりません。日が暮れて、どうしようもなくなって、べそをかきながら父親のいる馬小屋に行きました。すると父親は、そのことをすぐに先代の殿様に報告しました。

 当時の殿様は、わがままなところはありましたが、今の殿様とは違って、家臣たちからの信望があったのです。その話を聞いた殿様は、「そちの息子を連れてまいれ」と言いました。
 言われた通りに馬丁が息子を連れてくると、殿様はにっこり笑って「余と一緒に捜しに行こう」と言って、馬丁の息子の手を引いて、若様がかくれんぼをしていた庭に下りました。「ここかな? いや、ここにはおらぬぞ…。こっちかな? いや、こっちにもおらぬぞ…」などと言いながら、鶏小屋の裏の方へと導いていきました。そして、そこに、あの古井戸があったのです。

 殿様が行方知れずになったと聞いて、そのことを思い出した馬丁は、すぐに鶏小屋の裏へ行って、古井戸を覗いてみました。すると、やはり殿様がいました。馬丁が声をかけると、殿様は「遅いじゃないか」と言いました。
 それを聞いた馬丁は、昔、井戸の中から投げつけられた若様の言葉をありありと思い出しました。そこで、そのあとに投げつけられたもう一言を、井戸の中の殿様に投げ返してやりました。
 「もう遊んでやらんぞ」
 そして、三日間、誰にも古井戸の底に殿様がいることを話しませんでした。

 三日後に、古井戸の中から助け出された殿様が馬の姿になっていたことに、馬丁はたいそう驚きました。しきりに「罰が当たったのじゃ」と言って反省している殿様を見ると、少しかわいそうな気もしてきました。そこへ、先代の殿様がやって来て、こう言いました。
 「ちょうどよいではないか。町や村に用事のあるときは、この馬に乗って参れ。こやつの衣を着て行くがよい」

 こうして、殿様の格好をした馬丁が、馬になった殿様にまたがって、町や村に出て行くようになりました。人々は、馬に乗っているのが馬丁だとは知らず、ずいぶん気さくな殿様だなと思って、何やかやと話しかけるようになりました。もちろん、もう井戸の底に向かって不平や不満を叫ぶことはありません。

 このことから、「馬子にも衣装」という言葉ができたそうです。

――ここまで話した馬は、得意げに鼻を膨らませた。

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 馬が話し終わると、すかさず猿がこう言った。
 「じゃあ、次はおれの番だ」

――馬にまたがった猿は、次のように語った。

 昔、ある山寺に、とんち好きな和尚さんがいました。この和尚さんには、残念という名の弟子がおりました。その名の通り、本当に残念な弟子でした。

 あるとき、町まで行く用事ができた和尚さんは、弟子の残念に留守番を言いつけました。そして、和尚さんの部屋にある壷に入っているのは毒だから絶対に舐めてはいけないよと付け加えました。

 和尚さんがいなくなると、残念は、さっそく和尚さんの部屋に入って、戸棚から壷を取り出そうとしました。すると、後ろの方から「見たぞー」という声がしました。
 ぎくりとして振り返ると、障子の隙間から三匹の山猿が覗いていました。この三匹の山猿は、ミザル、キカザル、イワザルという、とても面倒な三兄弟です。

――ここまで話した猿は、急にクイズを出題した。

 「さて、ここで問題です。『見たぞー』と言ったのは、どの猿でしょう?」

――そして、何ごともなかったように、話の続きを語った。

 すると、残念は、ミザルに向かって「お前は何も見なかった」、キカザルに向かって「お前は何も聞かなかった」、イワザルに向かって「お前はこのことを誰にも話さない」と言いました。そして、三匹の猿に「いいな」と念を押しました。

 すると、イワザルだけは「僕はそういうキャラだからいいよ」と言いましたが、キカザルは「僕は見たことを和尚さんに話せるよ」と言い、ミザルは「僕だって聞いたことを和尚さんに話せるよ」と言いました。本当に残念な弟子ですね。

――ここで、作者は突然あることを思い付いて、猿の話を中断させた。

 「この続きは、またあとで」

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――馬にまたがった猿は、話を続けた。

 「おまえ、また水飴を舐めるつもりだろ」とミザルが言いました。「そんなことをしたら、また和尚さんに叱られるぞ」とキカザルも言いました。「おまえ、本当に残念なやつだな」とイワザルまで言いました。
 「うるさいな、黙ってろ」と残念が言うと、山猿たちが「黙るもんか」「舐めて叱られたらプラマイゼロじゃん」「おまえの頓智は猿知恵以下だ」と言いながら、和尚さんの部屋に入ってきて、残念を取り囲みました。
 「じゃあ、その猿知恵をみせてみろよ」と、残念が言うと、山猿たちが「よーし」「その勝負、受けて立とう」「叱られずに水飴を舐めた方が勝ちだからな」と言い出して、頓智と猿知恵の勝負をすることになりました。

 残念は、戸棚から壷を取り出して、三匹の山猿の前に置きました。
 「さあ、舐めてみろよ」と、残念が言うと、山猿たちは「おれが舐める」「いや、おれが」「いや、おれが先だ」と争い始めました。残念が思わず「じゃあ、おれがやる」と手を上げると、山猿たちは「どーぞ、どーぞ」と言いました。
 残念は水飴を舐めました。山猿たちがじっと見ていたので、いつもより余分に舐めました。
 「さあ、次はおまえたちの番だぞ」と、残念が言うと、急に山猿たちは逃げて行きました。
 「何だ、口ほどにもないやつらだな」

 残念が何食わぬ顔で庭掃除をしていると、山猿たちがやってきて、残念の方をちらちら見ながらひそひそ話を始めました。
 「お前たち、チクるなよ」と残念が言うと、山猿たちは「そんなこと、するもんか」と言いました。そこへ、和尚さんが帰ってきました。
 「留守中、何か変わったことはなかったか」と和尚さんに尋ねられて、残念は「はい」と短く答えました。山猿たちを見ると、ミザルは両手で目をふさぎ、キカザルは両手で耳をおおい、イワザルは両手で口をおさえていました。
 和尚さんは、首をかしげながら、部屋に入っていきました。

 しばらくすると、和尚さんが残念を呼びました。「また廊下の掃除をサボったな」という小言を聞きながら和尚さんについて行くと、なるほど確かに、廊下には山猿たちの足跡がついていました。残念は嫌な予感がしました。
 先に部屋に入った和尚さんは「まあ、ここに座りなさい」と言って、棚から壷を取り出しました。またお説教かと思って小さくなっていると、和尚さんが目の前に壷を置きました。
 「山猿たちの様子が妙だったので、もしやと思ってこの壷を見たら、水飴が減っておった」
 「毒ではなかったのですか」
 「ああ、そうだったな。そんなことより、あの山猿めをとっちめる手はないものか…」
 和尚さんは、山猿たちが犯人だと思い込んでいるようです。残念は、ほっとしました。
 「ぼさっとしてないで、おまえも少しは何か考えろ」

 「うーん…」と残念は唸り声をあげました。こういう頓智問題は大の苦手なのです。こんな目にあうのなら、和尚さんに叱られた方がマシです。
 「あのー、和尚さん」と残念が話しかけると、和尚さんは「おおっ、何か思いついたのか」と顔をほころばせました。
 「実は…。水飴を舐めたのは、わたしです」
 それを聞いた和尚さんは、がっくりと肩を落としました。
 「それは残念だな」

 和尚さんは、残念にたっぷりとお説教をした後で、疑ってしまったお詫びに三匹の山猿を招待して、水飴をたくさん舐めさせたという話です。

――こう話を締めくくった猿は、みんなのブーイングを浴びた。

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 猿の話を聞いた禁太郎たちは、口々にこんなことを言った。
 「結局、和尚さんまで山猿に騙されてるじゃないか」
 「そうだそうだ。猿ばっかりずるいぞ」
 「水飴なんて甘いだけじゃないか」
 「それに、どこにも頓智なんてなかったし」
 「そうだそうだ」
 「蜂蜜だったらよかったのに」
 猿はムッとして、禁太郎に言った。
 「じゃあ、頓智話を聞かせてくれよ」
 「いいとも」

――そして、禁太郎は次のように語った。

 山寺に帰ってきた和尚さんは、三匹の山猿がそれぞれ変なポーズをしていることに気付きました。見ざる、聞かざる、言わざるだなと思った和尚さんは、山猿たちにこう尋ねました。
 「嘘をつくと、閻魔様に舌を抜かれるという話を知っているかい?」
 山猿たちはうなずきました。
 「見たことを見なかったと言ったり、聞いたことを聞かなかったと言ったりするのも、嘘をつくのと同じなんだよ。これは分かるかい?」
 ミザルとキカザルはうなずきました。
 「言いたくないことを言わないのは嘘ではないが、嘘つきをかばって何も言わないと閻魔様に嘘つきのなかまだと思われてしまうことになるぞ。これも分かるね?」
 イワザルはうなずきました。
 「よろしい」
 そして、和尚さんは言いました。
 「それでは、みんな一緒に、わたしの部屋まで来なさい」

 和尚さんが部屋に入ると、その後から残念と三匹の山猿がついてきました。
 「みんな、そこに座りなさい」
 そう言って、和尚さんは棚から壷を取り出して、みんなの前に置きました。
 「さて、この中に、嘘つきがいる。それは誰だ?」
 すると、残念がこう言いました。
 「それは、和尚さんです。その壷の中には毒が入っていると嘘をつきました」
 和尚さんは「これは一本とられたな」と言って、みんなに壷の中の蜂蜜をごちそうしました。

――禁太郎の話が終わると、熊だけは大いに喜んだ。

 猿と馬は何となく腑に落ちないような顔をしていたが、しばらく経ってから「何だ、そういうことだったのか」と納得した。

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 旅を始めてから一週間が過ぎ、そろそろ馬鹿話の種も尽きてきた。禁太郎の一行は黙々と歩き続けている。禁太郎の話を聞いて喜んでいた熊も、「次は俺の番か」と言ったきり、ずっと黙り込んだままだ。

 しばらく考えていた熊が「駄目だ。頓智話なんて何も思い付かないぞ」と言うと、禁太郎は「別に頓智話じゃなくてもいいんじゃないかな」と適当なことを言う。「本当に何でもいいのか?」と念を押す熊に、猿と馬も「何でもいいから早く話してくれよ」と答えた。

――そして、やっと熊が語り始めた。

 昔、ある森に、一頭の熊がいた。冬になったので、熊は冬眠した。

  • 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。そのまま眠り続けていたかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。
  • 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。今度は誰かに起こされて何だかややこしい質問をされ、それに答えてからまた眠ったかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。
  • 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。今度も誰かに起こされて何だかややこしい質問をされ、それに答えてからその誰かをむしゃむしゃと食べたあとまた眠ったかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。

 そして、春になった。熊は空腹なようなそうでもないような妙な体調で冬眠から目覚めた。おまけに、熊の傍らには誰かの死体があるようなないような変な状態になっていた。熊は何だか無性に苛々してきた。

 すると、どこからか熊めがけて飛んできたような飛んでこなかったような矢を、熊は身をかわしたような身をかわさなかったような素早い動きをして、弓を構えていたような構えていなかったようなやつに襲いかかって、むしゃむしゃと食べたような食べなかったような腹ごしらえをした。

 この森に何頭の熊がいるのかは分からないが、その中で一番不機嫌な熊だということだけは確かだった。

 森で一番不機嫌な熊は、トロッコに乗り込んだ。熊を乗せたトロッコは、斜面を下りながら徐々に勢いを増していって、里が近づいてきたときには猛スピードになっていた。

――このように語った熊は、それっきり黙ってしまった。これで熊の話は終わりのようだ。

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 熊の話が終わると同時に、禁太郎たちの周囲に白いものが漂ってきた。それは、霞のようでもあり靄のようでもあり霧のようでもあった。山々が消え、道筋が消え、木々が消え、あっと言う間に四方八方が白い空間に飲み込まれてしまった。もちろんお互いの顔も姿も見えない。
 「おいおいおいおい」「何も見えんな」「うわあ、すげえな」「何ですかこれは」
 禁太郎も熊も猿も馬も身動きできなくなり、声を出すだけだ。
 「おい、あれは何だ」「何だろうな」「どこどこ」「何ですかあれは」
 前方から、何かが近づいてくる。
 「あれは…」「こっちに来るぞ」「あの姿は…」「鹿だ!」
 見覚えのあるシルエットだった。

 禁太郎は、その鹿の影に向かって、禁太郎飴を差し出した。
 「見えないかもしれないけど、切り口のところに僕の顔が…」
 しかし、鹿の影は反応しない。
 「ほっぺたのところにはポッキーが…」
 すると、鹿の影は「それを早く言えよ」と言うが早いか禁太郎飴にかぶりついた。

――その後、鹿の影は、「お前たちは、ちゃんと原作を読んでいるようだから特別に話してやるが」と前置きをして、次のように語った。

 つい最近――といっても二年ほど前のことだが――、“運び番”と“使い番”が、デジクラとかプリカメとかいうものには鹿の姿が写ると言っていた――何? 「デジカメとかプリクラとかだろう」だと? 分かっているなら黙って聞け――そうそう、そのデジタルとかいうものを人間が使うようになったせいで、印を付けた運び番と使い番の正体が暴かれる危険が出てきたわけだ。これは次回までに対策を立てておかなくてはならない。それで、デジタルに詳しくて使えそうな人間を捜していたのだが、まあ百八十年後までに間に合えばいいからと、ついそのままにしておいた。

 ところが最近、地下のなまずが急に怪しい動きを始めた。“鎮め”の儀式が終わったばかりだというのに…。こんなことは、これまでの千八百年間、一度もなかったことだ。そこで、急遽、デジタルなんとかかんとかという役職についている真面目そうな人間を臨時の“運び番”に指名した。毎度のことだが、その人間もなかなか本気にしなかったので、印を付けてやった。
 それがどうもいかんことになったらしくて、人間たちは大騒ぎだ。まったく何がどうなっとるのかさっぱり分からんが、なんでもテレビとかいうのもデジタルだからそれに鹿の姿が写ると仕事ができなくなるという話で、しばらくの間、何か別の理由をでっちあげて休暇を取ったらしい。しかし、休んでいる間に鹿の姿がデジタルに写らないようにする技が編み出されたということだから、結果的には良かったのではないかと思う。その人間には“運び番”を断られてしまったが…。

 ところで、お前たちがケシカランと言っているあの妙な角をつけた鹿は、我々とは一切無関係だ。退治したければすればよい。しかし、あんな雑魚を退治しても何の意味もないだろう。
 そんなことよりも、今は地下のなまずの方が大問題だ。何らかの原因で地下の水脈に異変が起きて、そこからなまずが力を得ているような気配がある。あんな雑魚を退治するよりも、こっちの方がやりがいがあるぞ。どうだ、やってみないか?

――これで、鹿の影の話は終わった。

 禁太郎たちは、鹿の影の尻からポロポロと落ちている鹿の糞の影を眺めながら、さてこれからどうしようかと考えていた。この続きはあるかもしれないし、ないかもしれない。

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 昔、不眠症の王様がいた。大臣の娘が夜毎に語る驚くべき話の続きを聞きたくて、娘を生かし続けているという。この王様、昨夜の話を聞いたせいで、また眠れなくなってしまったようだ。

 「蜃気楼といったら砂漠の彼方にゆらゆらと現われる幻のことじゃな。それが、なんで海辺に出てくるのじゃ?」
 「おお、王様! シナでは大ハマグリの吐く息が蜃気楼になると言われているのでございます」
 「それは驚くべき話じゃな。シナの砂漠にはハマグリがおるのか! しかも、鳥をつかまえるほどの大きなハマグリが…」
 ここで、王様は何かひらめいたようだ。
 「おお、そうじゃ。その大ハマグリをシナから取り寄せるとしよう」
 この王様、一体何を妄想しているのだろうか?

  1. 大ハマグリを食べてみたいと考えている
  2. 大ハマグリで鳥をつかまえてみたいと考えている
  3. 大ハマグリでつかまえた鳥を食べてみたいと考えている
  4. 大ハマグリの吐く息でできた蜃気楼を見たいと考えている
  5. 大ハマグリの吐く息でできた蜃気楼を食べてみたいと考えている
  6. 大ハマグリの吐く息でできた蜃気楼に食べられてみたいと考えている
  7. 大ハマグリにはさまれてみたいと考えている
  8. 大ハマグリにはさまれながら鳥を食べてみたいと考えている
  9. 大ハマグリにはさまれながら鳥に食べられてみたいと考えている
  10. 大ハマグリにはさまれながら鳥のように飛んでみたいと考えている
  11. 大ハマグリにはさまれながら蜃気楼を吸ってトリップしてみたいと考えている
  12. その他

 ――ここまで読んだ大臣の娘は、呆れ果てて口を噤んだ。

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 語り姫は、王様が王妃と浮気相手の男をその場で処刑した後、毎晩、処女に夜伽をさせては命を奪い続けているという話を父親から聞いた。そして、これは何とかしなければと思った語り姫は自ら進んで王様の元へと赴いたのだった。

 毎晩、驚くべき物語を途中まで話して中断すれば、その続きを聞くまでは生かしておこうと考えてくれるだろうという、危うい綱渡りのような作戦だった。しかし、いかに古今東西の物語に通暁している語り姫といえども、こんなことを何年も続けていれば、そのうちに話す材料が切れてしまう。

 昼間、王様が政務を執り行っている隙に、語り姫は新しい物語を捜し歩いていた。この国に住む語り部たちの話す物語はとっくに使い果たしてしまったし、図書館にある古びた写本に書かれている話も同様だった。
 町には以前のような活気がなくなっていた。若い娘たちがことごとく他国へと逃げてしまったため、若い男たちもその後を追って出て行った。幼い娘のいる家族もいつの間にかいなくなっていた。将来に不安を感じたのだろう。たまに訪れていた旅人たちも、悪い噂を聞いたのか、姿を見せなくなっている。
 早く何とかしなければ、この国は滅びてしまうに違いない。こうなったら細かいことにこだわってなどいられない。語り姫は仕方なく、さびれた町の外れにある酒場の中へ入って行った。

 酒場の扉を開くと、がらんとした店の奥に主が一人で座って、ひまそうに何やら読んでいた。客が来たのに気付いた主は、目をあげて言った。
 「いらっしゃい。御注文は?」
 「不眠症になった王様が眠れるようになる物語を」
 「ああ、それならちょうど今読んでいたのがいいかな」
 店主は開いていた本を見せた。そのページには、東洋の奇怪な文字が縦に並んでいた。

 ――その夜、語り姫は以下のように語った。

 これは、昔のある国での出来事です。宦官たちが見張っていて男が入れる筈のない後宮に住む妃たちが、次々に身ごもってしまうという怪事件が発生しました。

 妃たちは、男たちの声はするけれども姿は見えないのだと言って、気味悪がったり色めきたったりしております。そこで宦官は、姿が見えないとはいえ、男が来ていることに間違いはなかろうと、後宮のあたり一面に砂を撒くようにと女官たちに命じました。

 さて、その夜、妃たちが裸でくつろいでいると、いつもの男たちの声がやって来ました。妃たちは、その声の主たちと戯れて、やがて呻き声をあげ始めました。
 そして、静かになると、急に槍を持った兵卒が踏み込んできました。「足跡があるぞ」「逃がすな」などと叫んで大騒ぎをしたかと思うと、逃げて行く足跡の行方を追って出て行きました。

 ――ここで、語り姫が話を中断すると、不眠症の王様は姿の見えない男たちがその後どうなったのかを聞いてしまわないうちは安眠できそうもないと思い、語り姫の命を奪うのを先延ばしにした。

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 ――いつの夜のことだか分からなくなってしまったが、語り姫は、次のように話を続け... [ 続きを読む ]
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 ――その次の夜、語り姫は話の続きを語った。  おお、幸多き王様、第一の鼠はこの... [ 続きを読む ]
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 昔、とてもアホな娘がおりました。びっくりすると、じょじょじょーっとおもらしをしてしまいます。 「そうや、海の中ならバレへんやろ」  その日から娘は海の中で暮らすことにしました。 [ 続きを読む ]
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