カテゴリ「日本文学」の記事 (28)

 眠り姫は、森への道を歩いていた。どうして、こんなことになってしまったのか。あの娘さえいなければ…。あの娘が王子と結ばれるなんて、絶対に許せない…。
 そこまで考えて、眠り姫は、はっとした。いけない。これでは私に呪いをかけた魔女と同じになってしまう。そうなのだ。魔女の呪いのせいで、私は百年間も眠らされていたのだ。

 勇敢な若者がやってきて口づけをすると目が覚めるのだと聞かされていたが、眠り姫が目覚めたときには、そんな若者はどこにもいなかった。しかし、流行遅れの服を着ている姿を誰にも見られなかったのはかえって好都合だった。
 それから毎日、新しい服を買いに行かせて、古い服は火にくべさせた。今、眠り姫が着ているこの服は、小間使いが灰の中からこっそり拾ったものだ。こんな灰だらけのみすぼらしい服を大事にとっておくなんて…。そのときはそう思ったが、これが役に立った。いや、結局は何の役にも立たなかったのだけれど。

 白馬に乗った王子様を待っているだけでは駄目。だから、こっちから派手なパレードをして、美しく着飾った私を見てもらおうと考えたのだった。ところが、あの仕立て屋が持ってきたのは、あのいやらしい布地だった。みんなが、その美しさを絶賛したが、私には見えなかった。お城の中だけだったらいいけれど、街へ出るなんて、とても無理だった。私よりも馬鹿な男たちの、いやらしい視線を浴びるのだと思うと、ぞっとした。

 それなのに、あの娘にも、街中の男たちや女たちの目にも、あの布地は見えたのだ。見えなかったのはただ一人、隣の国の王子だけだった。こんな馬鹿な話があるだろうか。まるで悪夢ではないか。そうだ。これは夢に違いない。私はまだ眠っているのだ。

 これが夢だったら、何かお告げが隠されているはずだ。「衣装にこだわるのは馬鹿なことだ」とか。ほかにも何かあるかもしれない。「衣装を捨てて裸になれ」とか。そういえば、あの娘が裸で倒れていたのは、このあたりだった。そうだ。ここで裸になって倒れていれば、もう一人の私がやって来て…。

 なんだ。こんな簡単なことに今まで気付かなかったなんて。そう思いながら、眠り姫は服を全部脱ぎ捨てて、枯れ葉の上にうつぶせになった。土臭くて寝心地もよくないが、今は我慢するしかない。夢の中でも歩き疲れたのだろうか、まもなく、眠り姫は寝息をたてはじめる。

 甘い香りのするふかふかしたものに包まれているのを感じて、眠り姫は目覚めた。すると、そこは、チューリップの花の中だった。

**

 ある日の事でございます。眠り姫が目覚めると、小さな蜘蛛が一匹、(中略)。下人の行方は、誰も知らない。


**

 また目覚めたとき、もはや眠り姫には自分が何者なのかさえ分からなくなっている。古今東西・老若男女の有名・無名の登場人物が重なり合っているのである。彼女は苛々してこう言った。「ぶっ殺されたい?」

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 昔、昔、正直者なのに馬鹿を見ず、畑から出てきた大判小判で小金持ちになり、おまけに小太りになった爺さんがいた。小太りな爺さんは、ポチという犬を飼っていた。ポチも贅沢な餌を毎日たらふく食べていたせいで、小太りになっている。

 ある日、隣の貧乏だが親切な爺さんの家の庭にポチがやってきて、こう吠えた。
 「爺さん、ワンワン。爺さん、ワンワン」
 「おやおや、珍しい。ポチじゃないか」
 「大変、ワンワン。大変、ワンワン」
 「どうしたんじゃ?」
 「病気だ、ワンワン。病気だ、ワンワン」
 ポチの後を追って隣の家に行くと、小太りな爺さんが頭から布団をかぶって寝ている。
 「どうした、爺さん?」と布団をめくると、おでこに大きな瘤があった。
 「何じゃ、それは」
 「ガンだそうじゃ」
 「ガン?」
 「手術をしなければ、あとひと月の命じゃと」

 「大判小判を残らず全部? あの青ひげとかいうやつがそう言うたのか」
 「死んでしもうたら、元も子もないんでな」
 「気でも違うたか。あんな流れ者の言うことを本気にするとは」
 「あの薮よりは信用できるぞ」
 「そうじゃ、養生所に行って診てもろうたらええ」
 するとそこへ、赤ひげが入ってきた。
 「悪いが、話は聞かせてもらったよ」
 赤ひげは、有無を言わさぬ手早さで瘤を触診した。
 「これは、ガンではない。ただのできものだ」
 「もうだまされんぞ。婆さんのときもそう言うたではないか」
 「ならば、そのもぐりの医者にかかって死ぬがいい」
 そう言い置いて、赤ひげは、帰って行った。

 翌朝。瘤のできた爺さんは大判小判の入った甕を手押し車に乗せ、青ひげの屋敷に向かっていた。ポチは留守番だ。隣の親切な爺さんが追いかけて来た。
 「どうしても行くのか」
 「大きなお世話だ」
 「小さな親切と言え」
 「もうついて来るな」
 そんなことを言い合っているうちに、青ひげの屋敷に着いた。
 「こんな立派な屋敷が建つんじゃから、腕のいい医者に決まっとる」

 瘤のできた爺さんの様子を見に、赤ひげがやって来た。すると留守番のポチが尻尾を振って、こう吠えた。
 「爺さん、ワンワン。青ひげ、ワンワン」
 「そうか」
 赤ひげは、懐から吉備団子を出してポチに与えた。
 「それを食ったら、鬼退治に出かけるぞ」

 「ここから先は立ち入り禁止だ」
 そう言って、青ひげは地下にある手術室の扉を閉めた。一人で取り残された親切な爺さんが、心配そうな顔で廊下を行きつ戻りつしていると、赤ひげがやって来た。ポチと、どういうわけか猿と蜂がお供についている。
 「青ひげ、ワンワン。もぐりだ、ワンワン」
 ポチが吠えると、手術室の扉が開いて青ひげが顔を出した。「うるさいな。手術の邪魔を…」と言いかけたところを猿がひっかく。「うわっ、何をする!」と顔を覆って叫んでいると、注射器をもって飛んできた蜂が、青ひげの尻にプスリと一刺し。
 廊下に倒れた青ひげは、いびきをかきはじめた。赤ひげはずかずかと手術室に入って行く。
 「さあ、あとはわしがやろう」
 親切な爺さんが恐る恐る入ってみると、赤ひげは、麻酔で眠っている爺さんの瘤にメスを入れていた。
 「心配するな。すぐに終わる」

 こうして、瘤を取ってもらった爺さんは、ただの小太りな爺さんになり、贅沢な暮らしをやめたおかげで、そのうち元通りの正直な爺さんに戻った。
 「青ひげのやつ、顔じゅう傷だらけになって、ほうほうの体で逃げて行きおった」
 このように、親切な爺さんは村中に言い触らして歩いた。そして、必ず、こう締めくくるのだった。
 「しかし、大判小判を残らず持っていくとは、敵も去るものじゃな」

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 あるとき、雲の上で、ジャックが大判小判を眺めていると、ピノキオが言った。
 「どうしてあんな嘘を吐いたんですか?」
 「嘘も方便さ」
 「嘘もホウベン?」
 「人間には、嘘を吐くことが必要な場合もあるという、あの国のことわざだ」
 「僕には分からないな。嘘を吐くと人間にはなれないと言われたけど、これも嘘なの?」
 「あの女神は人間じゃないだろう」
 ジャックは笑って、こう付け足した。
 「もっとも、あの女神は正直者が大好きなようだが…」
 ピノキオの耳が赤くなった。
 「すぐ顔に出るやつだな」

 そのころ地上では、正直爺さんが荒れた畑を耕していた。すると、鍬が何か堅いものに当たった。
 「やれやれ。もう大判小判には懲り懲りじゃよ」
 正直爺さんが手を休めて腰を伸ばしていると、ポチがやってきた。しかし、畑に埋まっているものの匂いを嗅ぐと、つまらなそうな顔で戻って行った。
 「どうやら今度はただのガラクタのようじゃな」
 正直爺さんはゆっくりと鍬を入れ、埋まっている物を掘り出しにかかった。

 養生所に、先日、瘤を取ってやった爺さんがやって来た。例の甕を大事そうに抱えている。「どうした?」と赤ひげが問うと、爺さんは「裏の畑から、こんな物が出てきました」と答えて、甕を床に置いた。そして、甕の中から手紙を取り出して、赤ひげに渡した。

 爺さんがじっと見ていると、赤ひげはこう言った。
 「わしが読まずに食べるとでも思っているのか」
 そして、手紙を読み始めた。

もう分かっていると思うが、ガンというのは嘘だ。だまして悪かった。しかし、あのまま贅沢三昧の暮らしを続けていたら、あんたは近いうちに死ぬところだった。大判小判はその治療費としていただくつもりだったが、私は何もできずに伸びていた。そのまま返すだけでは芸がないので、これを置いて行く。赤ひげによろしく。

 甕の中には、紙に包んだものがたくさん入っていた。包みを一つ取り出して開けてみると、植物の種といっしょに、栽培法や処方などを細かく書き込んだ紙片が入っていた。なかなか手に入らない珍しい薬草だ。どの包みの紙片にも、ここの栽園には植えていない薬草の名が記されていた。

 爺さんがじっと見ていると、赤ひげはこう言った。
 「わしが涙を流すとでも思っているのか」
 そして、苦い笑みを浮かべて呟いた。
 「あの青二才め」

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 昔、むかし、ある国に、伏姫という姫君がおりました。蝶よ花よと育てられた伏姫はすくすくと成長し、あっと言う間に婚活を考える年齢になりました。

 ある日、伏姫は、八房という犬を連れて来ました。部屋に通された八房は、殿様の前にかしこまって座っています。
 「して、今日は何の用じゃ?」と殿様が水を向けると、八房はひときわ緊張した面持ちで、こう答えました。
 「お父さん。お嬢さんと結婚させてください」
 これを聞いた殿様は、激怒しました。
 「お前にお父さんなどと呼ばれる覚えはないっ!」
 そう怒鳴った殿様は、尻尾の毛を逆立てて部屋から出ていってしまいました。

 数分後、殿様が戻ってきました。
 「いや、先程は失礼した」と、殿様が言いました。「この頃、どこへ行っても『お父さんだ』『お父さんだ』と言われるもので、ついカッとしてしまった。許してくれ」
 八房は真面目な顔をして聞いていましたが、伏姫は笑いをこらえているようです。
 「では、一つ条件を出そう。敵の大将の首を取って参れ。さすれば、そちを伏姫の婿として認めてやろう。どうじゃ、これでよいか?」
 「ははっ。しかと承りました。必ずや敵の大将の首を取って参ります」
 八房は、さっそく敵陣を目指して突っ走って行きました。

 数分後、八房が戻って来ました。口には包みをくわえています。
 「取って参りました」
 「早いな」
 殿様は包みの中身を確認しました。
 「うむ。敵の大将に相違ない」
 「それでは、お約束通り…」
 「分かっておる」
 殿様は莞爾として、こう言いました。
 「ここで約束を違えたりすると、この後が大変だからな」

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 鹿の角を生やした馬が「こりゃあ、たまりません」と、禁太郎飴をガリガリと齧り、禁太郎が「でしょでしょ。今回は角砂糖ベースで、ほっぺたのところにはニンジンが入っているんだよ」と説明して、ケシカラン鹿を退治する旅に、鹿の角を生やした馬が加わった。

 馬の話では、その後、突然いなくなってしまった飼い主一家の行方を捜しているのだという。退屈していた一行が、その話で大ウケしたのに気をよくした馬が、調子に乗って馬鹿話をしながら、西へ西へと歩き続ける。熊の背には禁太郎、馬の背には猿がまたがっている。

――鹿の角を生やした馬は、こう語った。

 昔、ある国に、わがままな殿様がいたそうです。この殿様は、他人の言うことに耳を貸さず、何でもかんでも自分の思い通りに決めていました。

 ある日のことです。いつの間にか、殿様が行方知れずになりました。町や村の人々の暮らしぶりには無関心な殿様でしたから、お忍びで城の外に出るようなことは間違ってもするはずがありません。家臣たちは、いちおう城内を捜してみましたが、どこにも殿様は見つかりませんでした。

 実は、城中の庭の片隅に誰が掘ったものやら分からない古井戸があって、殿様はその中に落ちていたのです。

 三日後になって、やっと井戸から助け出された殿様は、耳だけでなく、全身が馬の姿になっていたということです。その古井戸の中で三日三晩を過ごした殿様は、地の底でつながっている井戸の奥から、町や村の人々の声が伝わってくるのを聞いて、これまで自分が人々の暮らしのことを何も知らなかったことを思い知らされたといいます。殿様は、これは罰があたったのだと反省し、それから後は、町や村の人々の話をよく聞くようになったという話です。

――ここで、馬の背に乗っている猿が尋ねた。

 「殿様は、その後もずっと馬の姿のままだったの?」
 すると、馬はこう答えた。
 「そうですよ」
 猿は、首を傾げている。何か納得できないことがあるようだ。
 「町や村の人たちは、どうしてその馬が殿様だと分かったのかな?」
 それは、もっともな疑問だ。さあ、どうする、馬?

――馬は、こう話を続けた。

 実は、殿様が行方知れずになったとき、城内の人たちは、ほとんど誰も心配なんかしていなかったのです。ただ一人だけ、殿様のことを本当に心配している男がいました。それは、殿様の馬の世話をしていた馬丁です。この馬丁の父親も先代の殿様の馬の世話係をしていました。今の殿様が子どもだった頃、この馬丁も子どもでしたので、よく一緒に遊んでいたのです。「竹馬の友」というやつですね。

 あるとき、若様が「かくれんぼをするぞ。そちが鬼じゃ」と言って、どこかへ行ってしまいました。子どものときからわがままだったんですね。ところが、さんざん捜し回っても若様が見つかりません。日が暮れて、どうしようもなくなって、べそをかきながら父親のいる馬小屋に行きました。すると父親は、そのことをすぐに先代の殿様に報告しました。

 当時の殿様は、わがままなところはありましたが、今の殿様とは違って、家臣たちからの信望があったのです。その話を聞いた殿様は、「そちの息子を連れてまいれ」と言いました。
 言われた通りに馬丁が息子を連れてくると、殿様はにっこり笑って「余と一緒に捜しに行こう」と言って、馬丁の息子の手を引いて、若様がかくれんぼをしていた庭に下りました。「ここかな? いや、ここにはおらぬぞ…。こっちかな? いや、こっちにもおらぬぞ…」などと言いながら、鶏小屋の裏の方へと導いていきました。そして、そこに、あの古井戸があったのです。

 殿様が行方知れずになったと聞いて、そのことを思い出した馬丁は、すぐに鶏小屋の裏へ行って、古井戸を覗いてみました。すると、やはり殿様がいました。馬丁が声をかけると、殿様は「遅いじゃないか」と言いました。
 それを聞いた馬丁は、昔、井戸の中から投げつけられた若様の言葉をありありと思い出しました。そこで、そのあとに投げつけられたもう一言を、井戸の中の殿様に投げ返してやりました。
 「もう遊んでやらんぞ」
 そして、三日間、誰にも古井戸の底に殿様がいることを話しませんでした。

 三日後に、古井戸の中から助け出された殿様が馬の姿になっていたことに、馬丁はたいそう驚きました。しきりに「罰が当たったのじゃ」と言って反省している殿様を見ると、少しかわいそうな気もしてきました。そこへ、先代の殿様がやって来て、こう言いました。
 「ちょうどよいではないか。町や村に用事のあるときは、この馬に乗って参れ。こやつの衣を着て行くがよい」

 こうして、殿様の格好をした馬丁が、馬になった殿様にまたがって、町や村に出て行くようになりました。人々は、馬に乗っているのが馬丁だとは知らず、ずいぶん気さくな殿様だなと思って、何やかやと話しかけるようになりました。もちろん、もう井戸の底に向かって不平や不満を叫ぶことはありません。

 このことから、「馬子にも衣装」という言葉ができたそうです。

――ここまで話した馬は、得意げに鼻を膨らませた。

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 熊の話が終わると同時に、禁太郎たちの周囲に白いものが漂ってきた。それは、霞のようでもあり靄のようでもあり霧のようでもあった。山々が消え、道筋が消え、木々が消え、あっと言う間に四方八方が白い空間に飲み込まれてしまった。もちろんお互いの顔も姿も見えない。
 「おいおいおいおい」「何も見えんな」「うわあ、すげえな」「何ですかこれは」
 禁太郎も熊も猿も馬も身動きできなくなり、声を出すだけだ。
 「おい、あれは何だ」「何だろうな」「どこどこ」「何ですかあれは」
 前方から、何かが近づいてくる。
 「あれは…」「こっちに来るぞ」「あの姿は…」「鹿だ!」
 見覚えのあるシルエットだった。

 禁太郎は、その鹿の影に向かって、禁太郎飴を差し出した。
 「見えないかもしれないけど、切り口のところに僕の顔が…」
 しかし、鹿の影は反応しない。
 「ほっぺたのところにはポッキーが…」
 すると、鹿の影は「それを早く言えよ」と言うが早いか禁太郎飴にかぶりついた。

――その後、鹿の影は、「お前たちは、ちゃんと原作を読んでいるようだから特別に話してやるが」と前置きをして、次のように語った。

 つい最近――といっても二年ほど前のことだが――、“運び番”と“使い番”が、デジクラとかプリカメとかいうものには鹿の姿が写ると言っていた――何? 「デジカメとかプリクラとかだろう」だと? 分かっているなら黙って聞け――そうそう、そのデジタルとかいうものを人間が使うようになったせいで、印を付けた運び番と使い番の正体が暴かれる危険が出てきたわけだ。これは次回までに対策を立てておかなくてはならない。それで、デジタルに詳しくて使えそうな人間を捜していたのだが、まあ百八十年後までに間に合えばいいからと、ついそのままにしておいた。

 ところが最近、地下のなまずが急に怪しい動きを始めた。“鎮め”の儀式が終わったばかりだというのに…。こんなことは、これまでの千八百年間、一度もなかったことだ。そこで、急遽、デジタルなんとかかんとかという役職についている真面目そうな人間を臨時の“運び番”に指名した。毎度のことだが、その人間もなかなか本気にしなかったので、印を付けてやった。
 それがどうもいかんことになったらしくて、人間たちは大騒ぎだ。まったく何がどうなっとるのかさっぱり分からんが、なんでもテレビとかいうのもデジタルだからそれに鹿の姿が写ると仕事ができなくなるという話で、しばらくの間、何か別の理由をでっちあげて休暇を取ったらしい。しかし、休んでいる間に鹿の姿がデジタルに写らないようにする技が編み出されたということだから、結果的には良かったのではないかと思う。その人間には“運び番”を断られてしまったが…。

 ところで、お前たちがケシカランと言っているあの妙な角をつけた鹿は、我々とは一切無関係だ。退治したければすればよい。しかし、あんな雑魚を退治しても何の意味もないだろう。
 そんなことよりも、今は地下のなまずの方が大問題だ。何らかの原因で地下の水脈に異変が起きて、そこからなまずが力を得ているような気配がある。あんな雑魚を退治するよりも、こっちの方がやりがいがあるぞ。どうだ、やってみないか?

――これで、鹿の影の話は終わった。

 禁太郎たちは、鹿の影の尻からポロポロと落ちている鹿の糞の影を眺めながら、さてこれからどうしようかと考えていた。この続きはあるかもしれないし、ないかもしれない。

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作者からの残念なお知らせ
 続きを思い付いてしまいました。もう飽き飽きしているかと思いますが、今しばらく御辛抱ください。


 白い空間に新たな影が現われた。それは大きな犬にまたがった姫のシルエットだった。この姿は、どこかで見たことがあるぞ。さては、かの有名な姫だな、と禁太郎たちは思った。
 大きな犬の影から降り立った姫の影は、鹿に一礼した後、禁太郎たちのいる方を向いた。凛とした気を放っている。
 鹿の影が紹介した。
 「こちらは、犬神とその“使い番”の御方だ。我々だけでは力が及ばないので、犬神に助力をお願いしたのだ」
 姫の影は、無言で禁太郎に歩み寄った。幣を両手で掲げ持ち、禁太郎の前で深々と御辞儀をする。禁太郎は、お祓いをするのだろうと思い、御辞儀を返した。すると、姫の影は右肩の上に構えた幣をほぼ水平に激しく一振りしたかと思うと、すぐさま両手両足を互い違いに振りながら大きく飛び上がり、着地した。同じ動作をもう一回した後、深々と御辞儀をした。(これと同じ一連の動作は、以下〔お祓い〕と略記する)
 禁太郎が御辞儀を返すと、姫の影は腹掛けをつかんで奪い取った。呆気にとられて見ていると、姫の影は、禁太郎の腹掛けを鹿の影の腹部に付けて、鹿の影の前脚を持ち上げた。そして、厳かな声を発した。
 「××ジカ!」
 そのまましばらく間をおいて、姫の影は鹿の影の前脚を下ろして腹掛けを外した。次に、腹掛けを自分の腰に巻きつけて、鹿の影の角の部分を両手でしっかりと持ち、自分の体を水平に浮かせた。腰に巻きつけた腹掛けがはためいている。そして、厳かに一言。
 「××シカ!」

 次に、姫の影は馬の前に立ち、〔お祓い〕をした。馬が御辞儀を返すと、姫の影は馬の頭の角をつかんで奪い取って、自分の頭に付けた。そして、厳かに一言。
 「×んとくん!」
 そのまましばらく間をおいて、頭から角を外し、角の先を組み合わせて顔の前にかざした。そして目の高さで前後にゆっくりと動かした。そして、厳かに一言。
 「×ントくん!」

 ここまで見た禁太郎は、こう思った。「たぶん、かの有名な姫の名をもじった姫なのだろう」

 さらに、姫の影は、猿と熊にも〔お祓い〕をしたが、奪い取る物が何もなかったためか、禁太郎の腹掛けと馬の角を使って、無言劇を演じた。

 まず、腹掛けを地面に敷いて、四角いエリアを作った。次に鹿の影を招き寄せて、そのエリアの周囲をゆっくりと歩かせた。一歩、二歩、三歩。そして後退。一歩、二歩。その繰り返しを延々と続けた。すると、腹掛けの四隅のあたりから芽が出て、葉を広げ、花が咲き、萎れていった。ここで、鹿の影を退場させ、犬神の影を呼び寄せた。
 犬神の影が腹掛けの周囲をゆっくりと歩き、隅のあたりに来ると地面の匂いを嗅ぎ、ここを掘れという素振りをする。姫の影は、馬の角を使って地面を掘り、茎を引く。里芋が二個実っている。これを繰り返し、四本の茎にそれぞれ二個ずつ実っている里芋が引き上げられた。姫の影は、掘り出した里芋を、鹿の影の背中の上に並べた。そして、厳かに一言。
 「掘った芋!」
 そのまましばらく間をおいて、里芋を腹掛けの上に並べた。そして、猿と熊と馬と禁太郎を招き寄せた。姫の影を見ると、手でつかんで持ち上げる身振りをしている。どうやら、収穫物を分け与えようということらしいと思って、各自、目の前にある里芋に手を伸ばすと、ひときわ厳かな声が響いた。
 「いじるな!」

 しばらく後、腹掛けの四隅を持ち上げて里芋を包めという意味だと分かって、その通りにした。すると、腹掛けの中の里芋はまぶしい光を放ち始めた。そして突然、四つの光がはじけ飛び、空の彼方へと四散した。腹掛けの中に残った四つの光は次第に弱まっていった。
 姫の影に促され、禁太郎たちが恐る恐る腹掛けに近づいて見ると、そこには四つの玉があった。手に取って見ると、透き通った玉の中には「禁」の文字が浮かび上がっていた。

 ここで禁太郎は、真相に思い至った。「ということは…。そっちの姫のもじりだったのか!」

 こうして禁太郎たちは、空の彼方に飛び散った四つの玉を捜す旅に出ることになってしまった。


作者からの余分な補足説明
 もう、お気付きかと思いますが、文中の「かの有名な姫の名をもじった姫」の名は、「もの×け姫」です。しかし、このもじりは既にいくつも前例があることが分かったため、没にしました。
 ちなみに、「そっちの姫のもじり」というのも文中には書きませんでしたが、もちろん「伏せ×姫」です。こちらも前例があることが分かったため、没となりました。今後は「×××姫」という名前で活躍することになると思います。

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 禁太郎は、腹掛けの中から取り出したものを河童の姫に見せました。
 「これが、俺の禁太郎飴だ」
 「まあ、すごいわ」
 「さあ、早くしゃぶってくれ」
 河童の姫は、禁太郎飴を口に含みました。
 「ああ、こんなの初めてよ」

――ここまで話したとき、×××姫は馬に蹴り倒された。

 「僕の角で、変な人形劇をしないでください」
 そこへ、顔を洗いに行っていた禁太郎が戻って来た。
 「えーっと。どこからやったらいいのかな?」
 「そうですね…」
 架空の台本のページをめくりながら、馬が答えた。
 「沼の中から河童の姫が現われるシーンからやり直しましょう」

 すると、沼の中から、河童の姫がひょっこりと顔を出して、こう言った。
 「あなたが落としたのは、この“金”の玉ですか、それともこっちの“禁”の玉ですか」
 顔の高さに掲げた両手には、まったく同じ大きさの透明な玉が握られている。
 「僕が落としたのは“禁”の玉です。そっちじゃなくて、こっちの…」
 禁太郎が“禁”の文字が浮かび上がっている方の玉を指さすと、河童の姫は妖艶な微笑みを浮かべて、こう言った。
 「あなたは正直な人間ですね。それにその髪型も気に入りました」
 そして、沼にもぐり、禁太郎のいるほとりに向かって泳いできた。
 沼から上がってきた河童の姫は、裸だった。さっきはここで不覚にも鼻血を流してしまった禁太郎は、今回はどうにか持ちこたえた。しかし、その次に、河童の姫に裸のまま抱きつかれてしまったとき、禁太郎の我慢は臨界点を突破した。

 「話が進まないから、そこはカットして、河童の姫が話をするシーンからいきましょう」
 馬が、架空の台本の十数ページ分をびりびりと破り捨てながら言った。角を取り上げられた×××姫は、人形に見立てた両手をくんずほぐれつさせ、大人しく遊んでいる。

――そして、河童の姫は次のように語った。

 今から三日前のことです。何か明るく光るものが見えたので、私は水面から顔を出して空を眺めていました。まだ昼間なのに星が見えるのは珍しいことです。これがほうき星というものだろうかと思いました。そのほうき星はだんだん大きくなって、この沼に近づいて来るように見えました。私は恐くなって家に帰りました。

 その夜、夢の中に妖精が出てきて、こう言いました。
 「あなたは今日、空から落ちてくる光を見ましたね」
 私が頭の中で「はい」と答えると、妖精には、それが聞こえたようでした。
 「明日の朝、大寺院へ行って『生命の樹』の根本をご覧なさい。あなたが見つけた光は、そこにあります」

 翌朝、私は妖精に言われた通りに、大寺院へ行って『生命の樹』の根本を見ました。すると、そこには、この不思議な玉が落ちていたのです。光にかざして見ると“金”の文字が浮かび上がりました。
 すると、私の後ろから長老の声がしました。
 「おや、姫じゃないか。何か困ったことでもあったのかな」
 私が不思議な玉を見せて、これまでの話をすると、長老はこう言いました。
 「それは『善の果』だな。姫が最初に見つけたのだから姫のものだ。それを持っていると何かいいことがあるかもしれないよ」

 そして、今日、これと同じような玉が空から降ってきたのです。

――ここまで話した河童の姫は、裸のまま再び禁太郎に抱きついた。

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 「今日からあんたが乗せてくれよ」と熊が言うと、馬は「別に構いませんよ」と快諾した。
 そんなわけで、禁太郎と河童の姫は馬の背に仲良くまたがっている。ぽっくりぽっくり。
 熊には猿が乗っている。のっしのっし。犬神の背には×××姫。すたすたすた。

 道中、河童の姫がいろんな話をした。自分が姫と呼ばれているのは大金持ちの娘として生まれたせいであり、河童の社会は王制ではないこと。河童は衣服を着ないこと。河童の雌が気に入った雄を追いかけて抱きつくのは普通だということ。などなど。
 ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。

 猿は、河童の次になまかになるのは、やっぱり猪だろうなと予想していた。しかし、あの鹿の話から、あの勇敢な姫の話につながらなかったことが、どうも腑に落ちない。伏線が何本も張ってあったんだけどな。今こうして俺が考えているということは、このネタは没になったということか。残念だなあ。
 ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。

 夜になった。

 ぐーぐーぐー。すやすやすや。むにゃむにゃむにゃ。
 もぞもぞもぞ。はあはあはあ。あっあっあっ。
 こそこそこそ。ちくちくちく。あっ、いたいっ。

 夜が明けた。禁太郎は目を覚ました。きれいに畳んだジーンズはあったが、腹掛けが見当たらない。河童の姫は静かな寝息を立てている。ジーンズをはいて、あたりを捜していると、朝もやの中から×××姫が現われた。禁太郎の腹掛けを持っている。禁太郎は、×××姫が黙って右手で差し出した腹掛けを受け取った。
 綻びたポケットが、不器用に繕ってあった。
 「直してくれたんだね。ありがとう」
 そう禁太郎が言うと、×××姫は右手を差し出した。
 「そういえば、禁太郎飴をまだあげていなかったよね」
 ×××姫は何度も頷いた。
 「でも、困ったことに、何が好物なのか全然見当もつかないんだよ…」
 すると×××姫は、こう言った。
 「××××××!」
 「あっ、そうか。その手があったか」

 禁太郎は、腹掛けから禁太郎飴を取り出した。
 「ほっぺたのところには、××××××が入ってるよ」
 ×××姫は喜んで、禁太郎飴を食べ始めた。よほど××××××が好きなのだろう、夢中になって、ずっと背後に隠していた左手を出している。その指には包帯が不器用に巻いてあった。
 ×××姫が繕ってくれた腹掛けを見ながら、今までよく分かんない人だと思ってたけど、いいとこあるんだな、と思っていると、×××姫が腹掛けの下の方を指差して、厳かにこう言った。
 「禁×袋!」
 やっぱりよく分かんないな、と禁太郎は思った。


“他一篇”は、18:30頃から、適当なBGMを思い浮かべながらお読みいただくと、気分が出ます。


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 空から降りてきた少女は地面に横たわったまま眠っている。ジョナサンは困ってしまった。あの得体の知れない妙な生き物を追いかけて光る玉を取り返したいのだが、この少女を放っては行けない。手を触れて揺り起こすことはためらわれる。跪いて、少女の寝顔に向かって声をかけてみる。
 「起きてください、お姫様」
 自然に、そういう言葉が出てきた。すると、少女は目を開いた。
 「王子さ…」と、言いかけた少女は、ジョナサンの顔を見て、言い直した。
 「おじさま」

 ジョナサンは、これまでの経緯を少女に語りながら、これは夢の中のできごとなのだと悟った。こんな炭坑には一度も行ったことはないし、第一、自分が坑夫であるわけがない。
 ジョナサンの話を聞き終わった少女は、驚くべきことを言った。
 「すると、これはあなたの夢の中でもあるのですね」
 ジョナサンが黙っていると、少女はこう続けた。
 「そうです。これは、私の夢の中でもあるのです」

――そして、眠り姫は、次のように語った。

 私は、十五才になったときに百年間の眠りにつきました。その夢の中で、私は何度も目覚める夢を見ました。目が覚めるたびに、私はなぜか様々な人に変身しているのです。そして、これが夢の中の出来事なのだと気付いてから、出来事の奥にある意味を考えるようになりました。
 あなたが今見ている夢にも、奥の方に何か意味があるのだと思います。炭坑や光る玉や妙な生き物には深い意味はありません。もちろん今の私の顔形や服装にも意味はないのです。
 あなたが妙な生き物にもらったドングリを見せてください。これと同じものを、あなたは今日の昼間にも見たんですね。さあ、あなたの家に行きましょう。

――眠り姫は、ベッドで眠るジョナサンの横に現われて、語り続けた。

 この夢が終わったときに、私は本当の目覚めを迎えるのだと思います。あなたの話を聞いて、なんとなく、そんな気がしました。

 これが、昼間に見たドングリですね。この二つのドングリを比べてみてください。そうです。そっくり同じです。

――眠り姫は、ジョナサンの手からドングリの片方を取って、あることをした。ジョナサンが同じことをするのを待って、眠り姫は再び語り続けた。

 ここ数年、といっても眠っているので時間のことは正確には分かりませんが、夢の中に邪悪な気配が漂っているのを強く感じるようになりました。何者かが巨大な悪巧みをしているようです。この二つのドングリは、その何者かと戦えという意味だったのです。あなたと一緒に。

――眠り姫は、いつの間にか裸体になっている。ジョナサンも裸だ。そして、眠り姫は、こう言った。

 その前に、あなたの抱えている問題から片付けましょう。

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