カテゴリ「人形劇」の記事 (1)

 伯爵の部屋から追い出されたJと眠り姫は、そのまましばらく呆然としていた。
 「こちらへどうぞ」
 案内人に誘導されるままに、二人は無言で歩いていった。

 外に出て、しばらく歩くと、研究者たちが建物を見上げて何やら叫んでいた。誰かが梯子を持ってきた。「あの窓だ」「早くしろ」などと怒鳴っている。火事でも起きたのか、建物に取り残された人を助けようとしているらしい。梯子に上った男がその窓を開けると、中から泡が吹き出した。泡まみれで助け出された人物は、酔ったようにふらふらしている。あたりにビールの匂いが漂ってきた。

 ふいに案内人が立ち止まった。
 「ここから先は、村の道です。私はここで失礼します」
 城の方へと戻っていく案内人の姿が見えなくなると、眠り姫が口を開いた。
 「この話は、これで終わり?」
 「どうやら、そうらしい」
 「何もできなかったわね」
 「そうだね」

 村の人々も、この異変に気付いて避難を始めているようだ。普段は決して立ち入ろうとしなかった村の周辺部に向かって、ぞろぞろと歩いている。

 突然、眠り姫が叫んだ。
 「馬が近づいて来る!」
 「馬だって?」
 Jは周囲を見回し、耳を澄ましたが、馬などどこにもいない。
 「眠ってる私の方よ。とうとう本当に目覚める時が来たんだわ」
 「それは、おめでとう」
 ほかに何か言おうとしたが、言葉が見つからない。
 「そうだ。これを返さなくっちゃ」
 眠り姫は身につけていたドングリを外して差し出した。Jは笑ってそれを受け取った。
 「君のおかげで、楽しい夢を見ることができたよ」
 Jはポケットから取り出したものを、眠り姫に渡した。
 「宝の地図だよ」
 「ありがとう」
 そして、眠り姫は自分の世界へ帰っていった。

 いつの間にか、最初に泊まった宿屋の前に来ていた。大きな地鳴りがして、宿屋がぐにゃぐにゃと動いた。振り返ると、城のあった山がなくなっていた。Jは村の縁へと続く道を急いだ。
 その道の先には、橋が架かっていた。その橋を渡り始めたが、向こう岸には何もない。この橋は、村の縁から空中に突き出しているのだった。眼下には、一面に海原が広がっている。Jは、鼻歌を歌いながら海に向かって放尿した。
 海面には、きらきらと光るものが集まっていた。鼻歌のメロディが微妙に変化して、どこからともなく複雑なコード進行の曲が聞こえてきた。空を飛ぶ子供たちの姿が見えた。
 身軽になったJは橋の上から飛び立った。Jは子供たちと何か言葉を交わした後、そのままどこかへ飛び去っていった。

 夜明けが近づいたころ、ついに島は海に落ちた。そして、海面に浮かんだ島は、ゆっくりと漂流しはじめた。

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