カテゴリ「SF」の記事 (13)

 今が昔になってしまった未来のお話です。

 あるとき、ある海岸に、一人の不審な老人が現われました。通報を受けた民間警察官がすぐに駆けつけました。

 警察官が氏名を尋ねると、老人は「ウラシマタロー」と名乗りました。ここで何をしているのかと尋ねると、「カメをタスけて、リューグージョーへイって、カエってキたら、みんないなくなっていた」などと意味不明のことを言っています。

 老人が大事そうに抱えている不審な箱のことを尋ねると、「オトヒメサマからもらったタマテバコだ」という返事で、どうも要領を得ません。そこへ、目撃者の話を聞いていたもう一人の警察官が戻って来ました。
 「モクゲキシャのハナシでは、ジーさんがそのハコのフタをアけたときにシロいケムリのよーなモノがデていたそーです」
 「そーか。それはヤッカイだなー」

 老人は近くの支店まで連行されて、手順通りの取り調べを受けました。

  •  IDカードを所持していない
  •  DNA照会の結果、行方不明者のリストにも全ユーザーリストにも該当者はなく、六親等以内の血縁者もいない
  •  所持していた箱は爆発物ではなく、中の気体は無害である
  •  声紋解析の結果、古代語に特有の訛りがある

 以上の状況証拠を公開したところ、数分後に検察員が集まり、形式的な会議を経て「航時法違反容疑で逮捕・起訴・有罪」との結論に達しました。

 航時法違反といえば殺人と並ぶ重罪です。状況証拠だけで有罪に持ち込めるのかという疑問も出ていましたが、ある検察員が「フタをアけたらシロいケムリのよーなモノが」で検索して、昔の判例を発見したのが決め手になったというお話です。

 「ウラシマタロー」を検索した人がいなかったのは、本当に残念なことですね。

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 そろそろ引き上げようかと思っていると、奥の席にいた顔なじみが声をかけてきた。
 「イッパイ、つきあってくれないかい?」
 彼は返事を待たず、隣に移ってきた。
 「じゃあ、イッパイだけ」
 彼は内ポケットから取り出した物を、私のコースターの横に置いた。
 「うちのフルいショコのナカにあった」
 薄い合成樹脂製のケースは傷だらけで、罅割れもある。
 「ナンだとオモう?」
 光沢のある円盤が入っている。再生できる機械はないはずだ。
 「CD-ROMだな。どこかのセイケイのドラマでもハイってたのか?」
 「カンジだよ」
 「カンジだって?」
 「ひとつひとつのモジにイミがあるという、あのカンジだ」
 「しかし、それは…」
 「おまけにゴセンゾのニッキもハイってた。もちろんカンジをツカってカいてある」
 他の客はもういない。どうやら、彼の法螺話に最後まで付き合うしかなさそうだ。新しいグラスに少し口をつけると、彼は話し始めた。

 彼の御先祖の日記によると、漢字という文字が急に使われなくなったのは、インフルという疫病のせいだという。当時は、その疫病が数年おきに世界中で大流行して、大勢の死者が出ていたそうだ。
 ある年に流行した疫病は、毒性がなくて自覚症状もなく、死者は一人も出なかった。これは後になって分かったことだが、実は潜伏期が異常に長かったため感染したことに気付かなかっただけで、気付いたときには全人類が感染していた。
 最初に発症したのは日本人だった。そして、その症状は、漢字の読み書きが全く出来なくなるというものだった。このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡ったが、すぐにジャパニーズ・ジョークとして片付けられた。たまたまその日が4月1日だったからだ。

 「ちょっとマってくれ」と私が口をはさむと、彼は不愉快そうな表情を浮かべた。
 「ナンだよ」
 「キョウはフルいレキホウでいうと、ナンガツナンニチだったかな」
 「よくワからんけど、ゴガツのチュージュンぐらいだろう」
 「そうか。またカツがれてるワケじゃないんだよな?」と、私が念を押すと、彼は愉快そうな顔になった。
 「エイプリル・フールというのは、イチネンにイッカイしかないよ」

 ところが実際は、その一日だけで世界中の感染者のほぼ全員が発症していた。漢字が使えなくなる症状だから、いまだに漢字を使っている日本人だけが自覚できたわけだ。日本人はパニックに陥った。

 翌日には、このニュースが再び世界を駆け巡って、「日本人は文字が見えなくなったそうだ」、「本を開くとどのページも白紙に見えるらしい」などというデマが広まり、いつの間にか「白紙病」という病名が付けられて、これが定着してしまった。
 もちろん、本が白紙に見えるということはなく、漢字の形はしっかり見えている。見えるけれども文字としては認識できなくなっているだけだ。彼の御先祖の言葉を借りると「漢字の部分だけが、まるで未知の外国語の文字のように、意味不明の図形に見える」ということだ。

 最初はパニックになっていた日本人も、漢字以外の文字なら読み書きできることから、次第に落ち着きを取り戻して、しばらくは漢字を使わない表記法でやり過ごすことにした。
 それで、日常生活に大きな支障がないことに気付いた日本人は、症状がおさまった後も、わざわざ漢字なんていう厄介な文字を使わくなったということだ。

 話を聞きおわった私は、一つだけ腑に落ちない点があったので、彼に尋ねた。
 「しかし、キミのゴセンゾは、そのニッキをカくときに、どうやってカンジをツカうことができたのかい?」
 「ああ、それはオレもギモンにオモった。それで、ほかのブンショをあちこちサガしてみて…」
 彼は、ここでグラスを空にした。
 「トウジはカンチョクという、あまりヒトにシられていないニュウリョクホウシキがあったことがワカったんだ」
 「ナンだ、それは?」
 こうなったら、もう一杯、付き合うしかなさそうだ。


〔転載者註〕会話文以外は、失われた漢字交じりの表記に改めました。

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 昔、ある国に、卵が好きな殿様がおりました。
 わがままな殿様でしたが、その国の人びとには、とても人気がありました。

 さて、月日は流れ、次の殿様に代替わりしました。
 わがままなところは先代と同じでしたが、家臣の諌言にも民衆の声にも耳を貸さないという、とても困った殿様でした。
 「殿様には何を言っても聞き入れてくださらない」
 「殿様には何を言っても無駄だな」
 「殿様に何を言っても馬の耳に念仏だそうだ」
 「殿様の耳は馬の耳らしいぞ」
 人々はこのように噂しましたが、殿様は馬耳東風だったそうです。

 さて、月日は流れ、また次の殿様に代替わりしました。
 わがままで聞く耳を持たないのは先代と同じでしたが、猜疑心が異常に強いという、とても困った殿様でした。
 「殿様には何を言っても聞き入れてくださらない」
 「殿様には何を言っても無駄だな」
 「殿様に何を言っても馬の耳に念仏だそうだ」
 「殿様の耳は馬の耳らしいぞ」
 猜疑心が異常に強い殿様は、国じゅうの井戸の底に盗聴器を仕掛けていたので、人びとの噂話はすべて筒抜けになっていました。

 さて、月日は流れ、またまた次の殿様に代替わりしました。
 わがままで聞く耳を持たず猜疑心が異常に強いのは先代と同じでしたが、自分の悪口を聞くと常軌を逸した怒り方をするという、とても困った殿様でした。
 そこで人びとは、秘密の場所に底なしの深い穴を掘りました。その底なしの深い穴の底に向かって大声で叫んで、鬱憤を晴らしたということです。
 「殿様の耳は地獄耳」

 さて、月日は流れ、殿様がいない時代になり、底なしの深い穴のことを知る人もいなくなってしまいました。

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 昔、昔、超昔、ある大陸に超巨大な国が繁栄していた。超巨大な国の科学技術は、時空や重力を支配できるほどにまで発達し、人々は超文明のもたらす超安楽な生活をおくっていた。そして、次第に何も考えなくなっていった。

 無知な民衆のおかげで、超巨大な国の大王は超巨大な権力をほしいままにして、超やりたい放題。そして、ついに不老不死の超技術を手に入れた。

 ところがあるとき、天変地異が起きて、その大陸は一夜にして海の底へと沈んで行った。こんなこともあろうかと、地下に超豪華なシェルターを作っておいた大王とその一族だけは難を逃れ、海底に沈んだ大陸の地下で暮らしていた。

 そして、時は流れ、昔、昔、普通の昔になったころ、地下宮殿の大王の部屋の天井からこんな声が聞こえて来た。

 「殿様の耳は地獄耳」

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前回のあらすじ)
 超昔、ある大陸で繁栄していた超文明社会は一夜にして海の底に没した。しかし不老不死の大王とその一族はシェルターの中で生き延びた。時が流れて普通の昔になったころ、地下宮殿の天井から、地上の声が聞こえてきた。

(主な登場人物)

ナー大王  地下宮殿の主
フー后 ナー大王の妻
サー妃 ナー大王の長女
マー王 サー妃の夫
カー王 ナー大王の長男
ワー姫 ナー大王の二女
ター王子 マー王の長男
ノー王 ナー大王の甥

 地下宮殿の中では、超発達した科学技術によって、地上から伝わって来た声の意味を既に解析していた。

 「どれもこれも支配者に対する悪口ばかりです」
 カー王の報告に、ナー大王が満足げに頷いた。
 「うむ。地上では圧政が続いておるようじゃな」
 「すぐに、やっつけに行きましょう」と、カー王が飛び出そうとするのをナー大王が一喝した。
 「馬鹿もんッ!」
 ナー大王がカー王に説教していると、サー妃がやって来た。
 「あんた、今度は何をやったの?」
 「姉さんには関係ないよ」
 「いきなり地上に出ようとしおったんじゃ」
 「まあ、何てことを」
 そこへ、フー后が助け船を出した。
 「もういいじゃありませんか。カー王も反省しているようですし」

 カー王が自室にさがって落ち込んでいると、妹のワー姫がなぐさめた。
 「きっと、お父さんはお兄ちゃんのことが心配だから怒ったのよ」

 ナー大王の招集で会議が始まった。
 「危なっかしくてカー王には任せられん。地上にはやはりマー王に行ってもらおう」
 「いやー、僕にはそんな大役は…」
 マー王が遠慮していると、マー王の幼い息子が言った。
 「パパは悪いやつをやっつけないですか?」
 マー王が言いよどんでいると、ナー大王はター王子に尋ねた。
 「ターちゃんは、地上の悪いやつをやっつけるのかい?」
 「ボクが行ってやっつけます」
 「そうか、そうか」
 ナー大王は目を細めた。

 しばらくすると、ナー大王の甥にあたるノー王がやってきた。
 「地上の声が伝わって来たんですって?」
 「もう知っておるのか」
 「さすがはノー王、耳が早いわね」
 「こういうのを地獄耳っていうんだよ」
 「地獄耳ですか。悪いやつは僕がやっつけます」
 「ちょっと、どうしたんだよ、ターちゃん」
 「カー王が余計なことを教えるからよ」

 「そう言えば、こんなこともありましたっけ…」
 フー后が言うと、みんながそのテーマに沿ったエピソードを披露しはじめた。何しろ不老不死で長年暮らしてきた一族だから話の種が尽きることはない。

 こうして、地上人の危機は回避されたのであった。

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 「今日からあんたが乗せてくれよ」と熊が言うと、馬は「別に構いませんよ」と快諾した。
 そんなわけで、禁太郎と河童の姫は馬の背に仲良くまたがっている。ぽっくりぽっくり。
 熊には猿が乗っている。のっしのっし。犬神の背には×××姫。すたすたすた。

 道中、河童の姫がいろんな話をした。自分が姫と呼ばれているのは大金持ちの娘として生まれたせいであり、河童の社会は王制ではないこと。河童は衣服を着ないこと。河童の雌が気に入った雄を追いかけて抱きつくのは普通だということ。などなど。
 ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。

 猿は、河童の次になまかになるのは、やっぱり猪だろうなと予想していた。しかし、あの鹿の話から、あの勇敢な姫の話につながらなかったことが、どうも腑に落ちない。伏線が何本も張ってあったんだけどな。今こうして俺が考えているということは、このネタは没になったということか。残念だなあ。
 ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。

 夜になった。

 ぐーぐーぐー。すやすやすや。むにゃむにゃむにゃ。
 もぞもぞもぞ。はあはあはあ。あっあっあっ。
 こそこそこそ。ちくちくちく。あっ、いたいっ。

 夜が明けた。禁太郎は目を覚ました。きれいに畳んだジーンズはあったが、腹掛けが見当たらない。河童の姫は静かな寝息を立てている。ジーンズをはいて、あたりを捜していると、朝もやの中から×××姫が現われた。禁太郎の腹掛けを持っている。禁太郎は、×××姫が黙って右手で差し出した腹掛けを受け取った。
 綻びたポケットが、不器用に繕ってあった。
 「直してくれたんだね。ありがとう」
 そう禁太郎が言うと、×××姫は右手を差し出した。
 「そういえば、禁太郎飴をまだあげていなかったよね」
 ×××姫は何度も頷いた。
 「でも、困ったことに、何が好物なのか全然見当もつかないんだよ…」
 すると×××姫は、こう言った。
 「××××××!」
 「あっ、そうか。その手があったか」

 禁太郎は、腹掛けから禁太郎飴を取り出した。
 「ほっぺたのところには、××××××が入ってるよ」
 ×××姫は喜んで、禁太郎飴を食べ始めた。よほど××××××が好きなのだろう、夢中になって、ずっと背後に隠していた左手を出している。その指には包帯が不器用に巻いてあった。
 ×××姫が繕ってくれた腹掛けを見ながら、今までよく分かんない人だと思ってたけど、いいとこあるんだな、と思っていると、×××姫が腹掛けの下の方を指差して、厳かにこう言った。
 「禁×袋!」
 やっぱりよく分かんないな、と禁太郎は思った。


“他一篇”は、18:30頃から、適当なBGMを思い浮かべながらお読みいただくと、気分が出ます。


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 突然空から闖入したJを、意外にも城の人びとは歓迎した。城の人びとは、明らかに村人たちとは異なっていた。

 「伯爵がお待ちかねです」
 一瞬、Jは耳を疑ったが、その中の一人は確かにこう言った。
 「伯爵が、私を待っているって?」
 Jが驚いて尋ねると、その人物は、こう答えた。
 「正確に言うと、あなたが作った村の地図を、首を長くしてお待ちになっているのです」
 そして、伯爵と面会できるのは夜に限られているので、それまでの間は、城内を見学しませんかとしきりに勧めた。

 その案内人が、Jを先導している。村からは田舎町のように見えた城は、たしかに複数の建物で構成されていたが、実際は何かの研究機関のような雰囲気だった。何やら研究室のようなところで奇妙な機械を操作している研究者に、あれこれと説明されたりしたが、どれもこれもJには理解不能なものばかりだった。
 「さっきの人たちが、手でガチャガチャとやっていた機械は何なのですか?」
 最初の建物を出てから案内人に尋ねると、あれは“鍵の板”だという返事だった。何とかピュータという万能機械に司令を送り込む機械だという説明で、Jは納得せざるを得なかった。

 「そうだ、測量師さん。ここの世界の地図を御覧になりますか?」
 次の建物の前で、案内人が、ふと思いついたようにこんなことを言った。
 「ここの世界?」
 「ここの〈図書館〉にしかない珍しい世界地図ですよ」
 Jは是非見せてほしいと答えた。

 その地図室と名づけられた部屋は、〈図書館〉の最上階にあった。壁面全体が地図だった。Jには見覚えのない地形ばかりで、どこの世界なのか、さっぱり分からない。
 「一体、これはどこの地図なんですか?」
 「あなかがお分かりにならないのも無理はありません」
 案内人は、その地図上の大きな海の中から小さな島の群れを探し出して、指差した。
 「あの島々を見てください」
 見ると、その島々はJにも見覚えのある形をしていた。
 「あれが地球です」
 それを聞いて、Jは目眩いがしてきた。

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 地図室の中で目眩いを起こしたJに、案内人が気付いた。
 「おや、どうなさいましたか?」
 「いや、何でもない。しばらくこうしていれば…」
 「少しお休みになった方が良いでしょう」
 案内人は、〈図書館〉の司書を呼び出した。
 「測量師さんを、休憩室にお連れしなさい」
 呼び出された司書は、断ろうとするJの口を塞いで強引に休憩室に連れ込んだ。

 Jは、休憩室のベッドに無理やり押し倒しされた。
 「早く、あの玉を返して」と司書が耳元で囁く。眠り姫の声だった。
 「どうしてここに君が出てくるんだ?」
 眠り姫は、Jのズボンの異様に膨らんでいる部分に手を伸ばした。
 「やめろ!」
 Jは飛び起きた。
 「分かったよ。自分でやるから」
 しかし、Jがポケットから取り出したのは助手の一人だった。
 「こんにちは。僕は助手の一人です。測量師さんにはハンプティと呼ばれています」
 「ふざけないで!」
 「分かったよ」
 しかし、Jがポケットから取り出したのはもう一人の助手だった。
 「こんにちは。僕はもう一人の助手です。測量師さんにはダンプティと呼ばれています」
 「いいかげんにして!」
 「分かった、分かった」
 Jは、ズボンを引き裂きそうな顔をして迫ってくる眠り姫をさえぎって、ポケットをひっくりかえしてさがした。しかし、もう何も出て来ない。
 「あれっ? おかしいな…。あっ、それは違う! そこは駄目だって!」
 待ちきれずに眠り姫が手を出してきたが、結局、あの玉はどこにもなかった。
 「どこに隠したの?」
 「どこにも隠した覚えはない」
 「とぼけないで!」
 すると、助手の一人がこう言った。
 「もしかして、玉を捜しているんですか?」
 そして、もう一人の助手がこう続けた。
 「窮屈だったからポケットの外に出しましたけど」
 それを聞いた眠り姫は、頭をかかえた。

――しかし、日が沈みそうなのを見て、眠り姫は手短に語った。

 私は邪悪な夢を見ている人物を突き止めました。それは、この城の伯爵だったのです。もう気付いていると思いますが、伯爵は人間ではありません。どんな経緯があったのか、とにかく伯爵は、この空飛ぶ島に棲み付いて、私たち人間を支配しようとたくらんでいるのです。
 以前、あなたに会ったときの私は、別の測量師と協力して、この城の中から玉を盗み出した村の娘でした。追い詰められて村の縁から飛び下りたようです。その測量師については、突然姿を消したということしか分かりませんでした。
 あの玉についても、詳しいことは分かりませんが、この浮かぶ島を支えている力に関係しているようです。とにかく、伯爵は血眼になってあの玉を捜しています。あの玉が伯爵の手に渡ったら、大変なことになってしまいます。

――眠り姫がそこまで語ったとき、少年たちが飛び込んできた。

 「その玉というのは、これですか?」
 少年の一人が持っている玉には“城”という文字が浮かびあがっていた。その他の六人の少年も全く同じ玉を持っていた。
 「一体、どういうことだ?」
 Jは、また目眩いを起こしそうになるのをこらえて、少年たちの話を聞いた。

 彼らの説明によると、みんな測量師の弟子になって、飛び方を教わったということだが、Jには何のことやらさっぱり分からなかった。
 あるとき、学校を抜け出して測量師の後をつけていたら、突然飛び立った測量師のポケットから、何か光るものが落ちてきた。拾ってみたら、この玉だった。みんなで測量師に届けてやろうと相談していたら、女教師に見つかってしまい、そんなことをするととんでもないことになると叱られた。
 村中が大騒ぎになって、村長を囲んで大人たちが話し合った結果、この玉のにせものを作って、こっそり城に戻してしまえということになった。七人のうち誰が持って行くかで喧嘩になるといけないので、にせものは七個作った。

 「じゃあ、君たちが持っているのは、全部にせものなんだね?」
 Jが尋ねると、少年の一人は冷静にこう言った。
 「何個もあると、にせものだとばれるんじゃないかと言ったのですが…」
 「本物はどこにある?」
 「粉々に砕いて村の外に捨てました。今ごろは海の底に沈んでいるはずです」
 Jは、しばらく考えていたが、何かひらめいたようだ。
 「よし。こうしよう」

 村に帰る二人の助手と少年たちを見送った後、Jは夕日にかざして玉を眺めていた。
 「うまくいくかしら」
 不安そうにこう言う眠り姫に、Jは答えた。
 「こうなったら、やってみるしかないだろう」

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 伯爵の部屋から追い出されたJと眠り姫は、そのまましばらく呆然としていた。
 「こちらへどうぞ」
 案内人に誘導されるままに、二人は無言で歩いていった。

 外に出て、しばらく歩くと、研究者たちが建物を見上げて何やら叫んでいた。誰かが梯子を持ってきた。「あの窓だ」「早くしろ」などと怒鳴っている。火事でも起きたのか、建物に取り残された人を助けようとしているらしい。梯子に上った男がその窓を開けると、中から泡が吹き出した。泡まみれで助け出された人物は、酔ったようにふらふらしている。あたりにビールの匂いが漂ってきた。

 ふいに案内人が立ち止まった。
 「ここから先は、村の道です。私はここで失礼します」
 城の方へと戻っていく案内人の姿が見えなくなると、眠り姫が口を開いた。
 「この話は、これで終わり?」
 「どうやら、そうらしい」
 「何もできなかったわね」
 「そうだね」

 村の人々も、この異変に気付いて避難を始めているようだ。普段は決して立ち入ろうとしなかった村の周辺部に向かって、ぞろぞろと歩いている。

 突然、眠り姫が叫んだ。
 「馬が近づいて来る!」
 「馬だって?」
 Jは周囲を見回し、耳を澄ましたが、馬などどこにもいない。
 「眠ってる私の方よ。とうとう本当に目覚める時が来たんだわ」
 「それは、おめでとう」
 ほかに何か言おうとしたが、言葉が見つからない。
 「そうだ。これを返さなくっちゃ」
 眠り姫は身につけていたドングリを外して差し出した。Jは笑ってそれを受け取った。
 「君のおかげで、楽しい夢を見ることができたよ」
 Jはポケットから取り出したものを、眠り姫に渡した。
 「宝の地図だよ」
 「ありがとう」
 そして、眠り姫は自分の世界へ帰っていった。

 いつの間にか、最初に泊まった宿屋の前に来ていた。大きな地鳴りがして、宿屋がぐにゃぐにゃと動いた。振り返ると、城のあった山がなくなっていた。Jは村の縁へと続く道を急いだ。
 その道の先には、橋が架かっていた。その橋を渡り始めたが、向こう岸には何もない。この橋は、村の縁から空中に突き出しているのだった。眼下には、一面に海原が広がっている。Jは、鼻歌を歌いながら海に向かって放尿した。
 海面には、きらきらと光るものが集まっていた。鼻歌のメロディが微妙に変化して、どこからともなく複雑なコード進行の曲が聞こえてきた。空を飛ぶ子供たちの姿が見えた。
 身軽になったJは橋の上から飛び立った。Jは子供たちと何か言葉を交わした後、そのままどこかへ飛び去っていった。

 夜明けが近づいたころ、ついに島は海に落ちた。そして、海面に浮かんだ島は、ゆっくりと漂流しはじめた。

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 心地よいまどろみの中で、眠り姫は馬に乗った王子が近づきつつあるのを感じていた。ふかふかのベッドは、なぜかゆらゆらと揺れていた。
 ぽっくり、ぽっくり。
 禁太郎は、うとうとしている×××姫に近づいて、馬から飛び降りた。
 「危ない!」
 落ちていく自分の体が、たくましい腕に抱きとめられるのを感じた眠り姫は、ゆっくりと目を開いた。
 「あなたは、どなた?」
 「いやだなあ、禁太郎ですよ」
 「……」
 ×××姫は目を見開いて絶句している。ヘッドスライディングで×××姫を受け止めた禁太郎は、何だか妙な気分になってきた。
 「いてててて」
 河童の姫が禁太郎の耳をつかんで、ずるずると引きずっていった。

 猿と熊が、ひそひそと小声で話している。
 「やっぱり人間の女の方がいいんだろうな」
 「いつかはこんなことになるんじゃないかと思ってたよ」

 ×××姫は、離れたところに一人で座り、うなだれていた。自分の中に突然現われた眠り姫の人格を追い出そうとして必死で〔お祓い〕を試みたが、何度やってもさっぱり効き目がなく、精根つきはてていた。このままでは何もかも、めちゃくちゃになってしまう。

 ピンクの豚がやってきて、×××姫の頭を吸った。×××姫の中から解放された眠り姫は、いそいそと空の彼方へと飛んでいった。すっかり元気になった×××姫は、さっそくピンクの豚と一緒にダンスを踊った。

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――ヽ大法師は、以下のように語った。  何だ。最初から話せだと。面倒だな。分かっ... [ 続きを読む ]
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 ――その次の夜、語り姫は話の続きを語った。  おお、幸多き王様、第一の鼠はこの... [ 続きを読む ]
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【概要】テレビドラマの脚本を読んだ原作者が過去を改変した結果、大変なことになってしまった。 [ 続きを読む ]
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