(2001-05-05)
キーボードの使い心地
キーボードも一種の筆記具だから使い心地は大切です。
キータッチがよく話題になります。確かにキータッチはキーボードの使い心地を左右する大きな要素ですが、人によって好みが異なるため、これが一番といったようなものを決めることはできません。
ここでは、もっとキーボード全体に目を向けてみます。
キーのレイアウト
キーのレイアウトを見ると、どのキーボードも英文用の機械式タイプライターと基本的に同じだということに気付くでしょう。
現在、最も多く見かけるキーボードは、図1のようなレイアウト[*1]になっています。
(図1)
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(固定ピッチフォントでも表示が崩れる場合は、サイズを変更してみて下さい)
このレイアウトには問題があります。詳しく言うと、「キーの物理的なレイアウト」と「文字の論理的なレイアウト」のどちらにも問題があるのです。
物理レイアウトの問題点
現在のキーボードの物理レイアウトは、タイプライターの機械的な制約[*2]があった時代の名残りで、キーが横方向に少しずれています。右手側はともかく、左手側のキーは手首を不自然にひねらなくては打てない形になっています。
左手の負担を軽くするために、左右に分離したキーボード[*3]もあります。
(図2)
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| A | S | D | F | G | | H | J | K | L | ; |
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| Z | X | C | V | B | | N | M | , | . | / |
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しかし、図2のように左手側のキーのずれが元のままでは、あまり効果がありません。左右に分離するだけでなく、左手側のずれの向きを逆にした方がもっと打ちやすくなることは容易に想像できます。
(図3)
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図3のレイアウトは従来のものよりも優れていますが、難点が二つあります。第一に従来のレイアウトよりも場所をとること、第二に左手側のキーの位置関係が従来とは大きく異なることです。
たとえデスクトップ機のキーボードを変えることができたとしても、空間的な制約のある携帯機にも同じものを搭載できない限り、二種類のレイアウトを使い分ける必要が出てきます。このときに左手側のキーの位置関係の違いがミスタイプの原因に[*4]なってしまいます。
レイアウトの改善がミスタイプの元になっては本末転倒なので、多少打ちにくくても従来のレイアウトで統一した方が現実的には問題が少ないというのも一つの考え方です。しかしそれでは、単なる現状の追認にすぎません。
図3のような左右分離型キーボードと共用してもミスタイプを誘発しないような携帯機用のレイアウトを作ればよいのです。
(図4) ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ | | | | | | | | | | | | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | |______|______|______|______|______|______|______|______|______|______| | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______|______|______|______|______|______| | | | | - | | | - | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______|______|______|______|______|______| | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______|______|______|______|______|______|
図4のような格子状のレイアウトであれば、図1・図2・図3のどのレイアウトと共用してもミスタイプを誘発するほどの違いはありません。
格子状レイアウトの問題点は、従来のものとは感覚的に少々異なることです。つまり、見た目と手触りに違いがあるのですが、それには簡単な方法で対処できます。
(図5) ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ _______ / / / / / / / / / / / / 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 0 / /______/______/______/______/______/______/______/______/______/______/__ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /______/______/______/______/______/______/______/______/______/______/__ / / / / - / / / - / / / / / / / / / / / / / / / /______/______/______/______/______/______/______/______/______/______/__ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /______/______/______/______/______/______/______/______/______/______/
図5のようにキートップの形状を変えれば、物理的には図4の格子状レイアウトと同じでも、感覚的には図1のような従来のキーボードとの違いが目立たなくなります。ただし、これはあくまでも図4に移行するまでの一時的なデザインです。
図5と図1は、感覚的にはあまり違いはありませんから、充分に共用可能です。図5・図1の共用から、図4・図3の共用へと徐々に移行していけば、より快適なキーボードを利用できるようになると考えられます。
(図6) ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ ______ | | | | | | | | | | | | | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | |______|______|______|______|______| |______|______|______|______|______| | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______| |______|______|______|______|______| | | | | - | | | | - | | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______| |______|______|______|______|______| | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |______|______|______|______|______| |______|______|______|______|______|
さらに、図3のジグザグになったハの字型を図6のように格子状配置を保ったまま左右に分離することにより、図1・図2・図3・図4・図5のどのレイアウトと共用した場合にもキーのずれを感覚的に補正できるようになります。
最終的には、デスクトップ機では図6、携帯機では図4のレイアウトを用いるのが、最もストレスの少ない組み合わせだと考えられます。
図6のようなレイアウトの製品には、NECのエルゴフィットキーボードや、Kinesis Corporationのcontoured keyboardや、TelePrint SystemsのMaltron Ergonomic Keyboardがあります。
図4のような製品は、残念ながら今はまだないようです。以前、私はセンターシフト、観音開き、蜂の巣などという多少マニアックなものを提案していましたが、そこまで凝らずに、こういうオーソドックスな形でいいんですが、どこか作ってくれるところはないものでしょうか?
論理レイアウトに関連する問題点
Qwerty配列よりもDvorak配列の方が良い[*5]と言われていますが、一度普及してしまった配列はすぐには変えられないようです。JISの仮名配列についても同様です。現在普及しているのは旧JIS配列と呼ばれているもので、新JIS配列はほとんど普及しないまま廃止されてしまいました。
普通、キートップには文字が印刷されていますが、このような刻印はない方がよいと思います。キーボードが('A'とか'B'とかいう具体的な)文字コードを送り出していないのであれば[*6]、予めキートップに文字を印刷しておくことはできないはずです。
私が今使っているノートパソコンは、英語はDvorak配列、日本語はG-Codeに変えてあるので、キートップにQwertyや仮名の刻印があるのは無意味です。文字キーの刻印を削るのには案外時間がかかりましたが、とてもすっきりしました。キーボードは本来こうあるべきだと思います。
刻印がなくては初心者が困るだろうという意見も当然あると思います。しかし、キーボードの論理レイアウトを決めているのはソフトウェアなのだから、ソフトウェアの側でキーボードの論理レイアウトを表示するなどのサポートをすればよいでしょう。どうしても実物のキートップに文字をのせたい人はシールを貼り付けて、不要になったら剥がせばよいのです。
むしろ、刻印があるせいで、文字はキーに固定されているものだという誤解を与え、文字の論理レイアウトを選択する余地を奪っているのではないでしょうか? それに、キーを見ながら打つ癖が付く原因[*7]はキートップの刻印にあるのです。
私は、論理レイアウトの標準規格は不要だと考えています。ユーザーが自由に変更できるのだから、物理レイアウトのようにどれか一つに決める必要はないでしょう。
理想的なキーボードとは
これはキーボードマニアが集まるとよく話題になることですが、ユーザーが自分用にカスタマイズした論理レイアウトや入力方式の設定を、別のキーボードにコピーできれば便利でしょう。記憶メディアやネットワークを介して、必要なときに必要なだけの変更を手軽にできるようなシステムを作るわけです。こういう規格なら大歓迎です。
キーボードは人間が直接ディジタルな情報を入力できる装置です。そこから先の機械同士の世界には厳密な規格が必要でしょうが、それ以前の人が触れる部分には機械的な規格は不要です。機械よりも人間の身体に合わせて作ってほしいところです。これもよく言われることですが、最低でも「大・中・小」の三種類のサイズぐらいはあった方がいいでしょう。あとは、論理レイアウトもキートップも既存の特定の方式を前提にせず、真っ白なのが理想[*8]です。
注
- [*1]
- 【最も多く見かける…図1のようなレイアウト】
英語用/日本語用で若干の違いがあったりして話が複雑になるので、便宜上、右端の記号類のキーは省略します。
- [*2]
- 【タイプライターの機械的な制約】
文字を打ちつけるバーをずらす必要があったために、キーの位置もずらしたのだと説明されています。もしもこれをもう一工夫する人がいたら現在のキーボードの物理レイアウトも変わっていたかもしれませんが、今さら言っても仕方ありません。
- [*3]
- 【左右に分離したキーボード】
最上段の数字の「6」が左手側になっている製品もあります。
ある時期、この手のデザインのキーボードが相次いで発売されました。穿った見方をすれば、これは訴訟対策だったのではないかと考えられます。
- [*4]
- 【左手側のキーの位置関係の違いがミスタイプの原因に】
中段から下段に指を移動する際に、従来は右に半分ずらしていたところを今度は左に半分ずらさなくてはなりません。このずれを合わせるとちょうどキー1個分に相当するので、指先の感覚だけでは両者の違いが分からず、間違って隣のキーを打ってしまうことになるわけです。
それよりもずれが少ない中段から上段への移動の際は、指先の感覚だけで位置の違いを補正できます。
- [*5]
- 【Qwerty配列よりもDvorak配列の方が良い】
これに対して「有意な差はない」という反論もあるようですが、「Dvorak配列よりもQwerty配列の方が良い」という説は見かけません。
完全に中立・公平な実験をしようと思ったら、キーボードやタイプライター(の絵や写真なども含む)を生まれてから一度も見たことも触ったこともない人を被験者にしなくてはならないでしょう。ほんの少しでもキーボード(のキートップに刻印された文字)を見たことがある人には、そのレイアウトを潜在的に記憶している可能性があるからです。
- [*6]
- 【キーボードが…文字コードを送り出していないのであれば】
私が知らないだけで、世の中には文字コード(や制御コード)を送り出すキーボードがあるのかもしれません。そのようなキーボードがもしもあったとしたら、それはそれで面白いと思います。キーボードから日本語の文字コードを直接送り出すような仕掛けが作れるかもしれないからです。
- [*7]
- 【キーを見ながら打つ癖が付く原因】
刻印をなくすことはキートップを見ずにタイプする習慣を身に付けるには有益ですが、キーボードを打ってみようとする意欲を失わせるおそれもあります。だから、キーを見ながら打ちたい人のために、キートップに貼るシールを添付すればいいと思います。
刻印を削るのに比べれば、シールを貼るぐらいは楽なことです。それに、最初から刻印されているキーボードよりも自分でシールを貼ったキーボードの方に親しみを感じるのではないでしょうか。
- [*8]
- 【真っ白なのが理想】
メーカーにはメーカーの都合があるのかもしれませんが、ソフトウェアで変更できることまで抱え込まずに、使いやすいハードウェア作りに徹してくれればと思います。そのうえで、独自の文字配列や入力方式などをソフトウェアとして(キーボードとは別に)提供してくれれば、より多くのユーザーに受け入れられることでしょう。
(2001-05-05 付記)
その後、文字が一切印刷されていない「これが打てるか!」という名のキーボードが発売されました。今はまだ物珍しさで注目されていますが、これが当たり前になる日も遠くはないでしょう。
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